良き後輩だ。

「セナさんが真面目に仕事してる…」

木の葉病院の休憩室に先程綱手様から押し付けられた資料達を持ち込みカリカリと筆圧薄げな文字でキチンと仕事をしている私の様子を視界に入れた人物が驚いたように声を上げる。その声で私も振り向いた。ひどいよお、私は普段から真面目だよお…と言った所で恐らく説得力ないだろうから言わないけど。

「サクラちゃんは何やってんのお?」
「いのと交代で先に休憩なんです。セナさんは何を?」
「綱手様命令と言う名のパシリ?」
「いや私に聞かれても…」

苦笑いを零すサクラはそのまま手に持った缶ジュースを喉に流し込んだ。サクラちゃんはサクラちゃんで忙しそうだよねえ…この若さで綱手様レベルの医療術持ってるんだからそりゃ色んな所から引っ張りだこになるわけで…私の年下なんてありえないわあ〜。動かしていた手をピタリと止めてじっとサクラちゃんを眺めていると、思いついたようにぽんっと手を叩いたサクラちゃんは楽しそうな顔を浮かべていた。

「何?どーしたのお?」
「そういえばセナさん、ちゃんと周りの人に通達しましたか?」
「へえ?一体なんの話し?」
「飲み会のことですよー。まあ私は飲めないですけど…3日前に綱手様が言ってたじゃないですか、木の葉の忍を集めて飲み会開くって」
「あー…なんか言ってたなあ…」

そういえばと3日前のことを思い出す。その日私とサクラちゃんとシズネが3人揃って火影室に呼ばれていた。滅多にこの3人が一緒に呼ばれるなんてなかったから、本気で木の葉に何かあったのかと思ったのだがそういうことではなく。

「里の一致団結の為に飲み会を開く!ということでお前等、3日後に酒屋で飲み会を開催するという旨を下忍から上忍の皆へ通達するように!」

なんとも嬉しそうな顔をして告げる綱手様に、この人はきっと自分が飲みたい衝動に駆られているだけで、きっとこの場に積み上げられた紙の山(つまり火影としての仕事)から目をそらせたいんだと思わずにはいられなかった。それから私達は仲良く退室し、2人と別れてからはもちろんそんなことも忘れてテンゾウのことで頭が一杯だったというわけである。だって私全く行く気なかったもの。

「…」
「え……まさかセナさん…」
「あはは〜…すっかり忘れてたあ」
「………」

呆れたような目を向けるサクラちゃんに、そうは言っても私飲み会なんて行かないつもりだからあと言えるはずもなく。しかし、サクラちゃんは頭の賢い中々出来た後輩であるからなのか、まあしょうがないかとばかりに小さく溜息を吐いていた。

「まあセナさんのことですからそうじゃないかとは思っていましたけど…ヤマト隊長のことが気になって飲み会なんて考えてなかったんですよね?」
「本当〜にサクラちゃんは賢いよねえ」
「あれだけ身体の機能とか初代火影様の資料を探していたんですから聞かなくても分かりますよ。…でも策があるんですか…?綱手様も手が出せないんですよ、ヤマト隊長の今の状態は…」
「サクラちゃんは、ヤマトを助けたくないのかな?」
「助けたいですよもちろん!でも…まだ私の知識じゃ分からないことも多過ぎて…」
「じゃあセナを信じててくれる〜?」
「…?」
「きっと大丈夫ってこと!」

笑顔を向けてサクラちゃんにそう伝えれば、一瞬目を見開いた後に少しの間を開けて柔らかく頷いてくれた。テンゾウは第7班の隊長でもある(カカシの代理をしていた時があったから)。だからサクラちゃんもテンゾウのことをすごく心配しているのは知っている。そのまま手に持った鉛筆を握り直すと、サクラちゃんから視線を外して仕事の再開を始める。静かにサクラちゃんがお礼の言葉を告げる声が聞こえて、少しだけ頬を緩んだ。

2014.05.09

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