自己犠牲

「そんなに怒って答えないでよお…医者としては気になることなんだからあ」

サスケは本当に真面目なんだから。まだ少し顔色が優れない彼の為に、ポケットの中から青い錠剤を取り出すとサスケの口元にびたっとくっつけた。

「むっ!?」
「はいこれ飲んでさっさと牢獄に帰んなさい。起きた時には完全体になってるからあ」
「こういうのは最初っから渡せよウスラトンカチ」
「獣みたいなサスケちゃんには力負けでしたからあ〜」
「…テメェ…ほんとに嫌な性格してやがるな…」
「ほらほらさっさと行った行った〜。セナも暇じゃないのお〜」
「……悪かったな」
「あらあ、素直」

私の言葉と同時に、ピキッとこめかみに青筋を立ててぼふんと消え去ったサスケにケラケラと笑い声を上げると、呆れたようなキーちゃんがひらりと私の肩の上に止まった。ちなみに蝶々の呆れた仕草っていうのは羽の動きで分かるのだ。長い付き合いだからこそ判明したことである。

「…ところでセナ、ちゃんとやるべきことはきちんとやったんでしょうね」
「ヤるべき?まあきちんとヤっちゃったよねえ」
「そうじゃなくて、避妊はしたのかって聞いてるの!」
「ちょっとお、夜になったからって大声でそんな破廉恥なこと言わないでよお。大丈夫大丈夫、薬飲んでるし〜」
「…そういうことは、愛する1人の人としかしてほしくないんだけどね…」
「セナは忍だよお?時にはしょうがないこともあるんだからあ」
「…」
「さ!調合の続き続き〜!!」

ベッドからピョンと飛び退いて自室に上がる階段をドタドタと駆け上がると、その拍子にキーちゃんがひらりと私の肩から離れて行った。別に見知らぬ人とヤるわけじゃないんだしい、1種の人助けなんだからあ。そりゃあキーちゃんの言うことは正しいけど、そんな綺麗な世界で生きてきた私じゃない。自分の情報を得る為にどんなことでもしてきたんだから…

「セナのストッパー役がまた必要になってきそうだよ…テンゾウ…」

ぽつりとキーちゃんの嘆いた言葉を耳に入れることなく、2階の自室へ足を踏み入れた私は真っ直ぐに机へ向かった。








「セナはまだか!!!」

大声が火影室に響いているのが聞こえてきて、私は超!猛ダッシュで火影邸をかけあがっていた。
やっばー!今日呼び出されてたの忘れてたあー!!

薬の調合も終わり後は保存だけという状態を残し、ぐっすりと眠りについた私が翌日見た物。それは、10時を過ぎた掛け時計だった。怪力攻撃だけは避けたい。いくら医療忍者でもいくら治療が自分でできると言っても、綱手様の拳骨だけは本当に耐え難いものなのだ。

「あ、セナさ…「ごめんサクラちゃんほんと今は無理いい〜!!!」…なんだ、ただの遅刻ですね…」

途中でサクラちゃんとすれ違ったがもうとにかくそれどころじゃなくて、適当に返事を返しその場を後にする。見えてきた火影室のドアをばたんと開けると、大層ご立腹な綱手様とそれを宥めるシズネ(とトントン)の姿があった。

「あ!ほら、綱手様、来ましたよ!」
「完全に寝坊してすみません〜!!」
「お前はいつになったら遅刻癖が治るんだ!!あア?!カカシでももうちょっと早く来るぞ!!」
「今日は本当に寝坊なんですう〜!!」
「今日は!?じゃあいつもはなんだ!!大体遅刻にかわりないだろうが!!はあ…もういい!!怒り疲れた!!」
「あ、本当?よかったあ〜」
「少しは反省しろ!!」
「し、してますしてますう〜!で、今日はどんなご用件ですかあ…?」

アセアセと手でゴマを擦りながら綱手様に恐る恐る視線を向けると、ギッと向けられた視線に背筋がすくみ上がる。拳骨受けるくらいなら雑用・雑務喜んでお手伝いしますからあ〜!!‥そんな私の心の声が聞こえたのか、綱手様は机の上に積まれた本を指して呆れたように告げた。

「奈良家の秘伝調合書と木の葉にある何種類かの調合書だ。これを分かりやすく1つに纏めてくれ。これを医療の最重要書類とするからな、しっかりやれよ。ちなみに1週間以内だ!!」
「鬼ですか!!!…ひ、すみませえん…」

つい出た本音にギラリと綱手様の目が光る。一気にしゅんと縮こまった私は諦めて頷くと、1冊の厚さが尋常じゃない数冊の本に溜息を吐いた。

2014.05.06

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