α ( "元"抜忍の男 )

「ただいまあ……って、キーちゃんまだ戻ってないのかあ」

あの後ヨシノさんが戻る前に自宅へ帰宅した私は、鍵を開けて2階へ上がったものの、キーちゃんの姿はまだ見当たらなかった。まだ夕方6時ちょっと前だもんねえ…ちなみにキーちゃんは2階にある小さな隠し穴から入ってくる。10cm程のちっちゃくて黒いカーテンがかかってるから、外からは分からないけどね。

コン、コンッ

病院のドアを叩く音が聞こえる。なあに?と2階の窓から下を見下ろせば、酷く血に汚れた1人の少年…いや青年というべきなのか。とにかく面をした暗部の姿があった。怪我でもしたのだろうか?

いやだから今日はお休みだって書いてあるでしょお?…しかし、血に汚れた姿を見て無視するわけにもいかず、渋々一階に降りて行く。暗部なら専用の病院あるでしょお〜なんて思いながら鍵を開けると、そのまま暗部はドサリと私の上に倒れこんできた。

「ちょっとお〜服汚れちゃうから、先に治療させ…え…このニオイ…」

思わず顔を顰めると、暗部の身体から漂う甘ったるい匂いに意識を集中させる。思わずウッとなりそうになったそれは…明らかにヤバイ匂いだった。フェロモン剤……媚薬…!?

「悪ィ……このまま、病院に行くわけには……」
「いやここも個人経営だけど病院ですからあ!!って、その声………もしかして…サスケ…?」
「クソ……ッ」
「長期任務ついてたハズだよね〜、今帰ってきたのお?…随分マズイやつ嗅がされたねえ、何があったか話せる?」
「あ、あ…でも先に薬ッ…」
「薬によっては作用を増長させちゃうから……ちょっと待ってて」

倒れこんだサスケを抱えるとなんとか1階奥にあるベッドへと連れ下ろした。‥凄いニオイだ。どこへどんな任務についていたのかを聞きたい所だが、確か暗部の長期任務。そう易々と話してはくれないだろう。

第4次忍界大戦後、少しの間を置いて里に帰ってきたうちはサスケ。もちろん抜忍だった彼を里は受け入れなかった。…が、カカシの教え子であるナルトとサクラが綱手様を説得し、火影直轄の暗部として、また任務時以外は暫く牢獄に入れることを約束後、木の葉の里に足を踏み入れることが許された。そんな彼は暗部に入隊してから過酷すぎる任務を請け負っている。それが綱手様の命なのか罪滅ぼしなのかは分からないし聞く気もないが、正直私はサスケを悪い奴ではないと思っている。確かに重罪人ではあるけどね、若い時は色々迷うものだ。それにサスケの過去は簡単に里を許せることでもなかっただろうし。鍵をかけてベッドに駆け寄ると暗部の面を外す。端正な顔には汗が滲み、熱を孕んだ目と浅く漏れる息遣いが目に付く。ぐぐっと唇を噛む仕草に、酷い状態だと確信した。

「薬はすぐに効果が出た?」
「相手の血を、浴びた瞬間ッ…強いニオイが、して…」
「それ、くノ一だよね?」
「あ、あ……とにかく、早く…」

血液に溶ける物で浴びると強く効果を発揮する薬。思わず私は眉間に皺を寄せる。間違いなくどの里でも作るのは違法とされる薬だからだ。バタバタと2階に上がると保存しておいた液体を取り出して、いくつかの粉と混ぜ合わせる。出来た物を持って急いで降りていくと、白くなるほどに手を握り締めたサスケの姿が目に映った。

「サスケ、これ飲んで」
「ッ…」
「時間が経つにつれて記憶障害を起こす可能性が高くなっちゃうから、」
「う、あァッ…」
「…ごめん、飲ませるよ?」

待っていても埒が明かない。そう思って薬を自分の口に含むと、そのままサスケの唇に自分のそれを押し当てた。舌でこじ開けてなんとか流し込む。ごくん、という音で飲んだかなと唇を離そうとした瞬間、サスケの手が私の後頭部を押さえつけた。

「ッ…んんっ…?!」
「悪ィ、無理…ッ」
「ちょ、落ち着いて…薬はそのうち効いてくるッ…」
「分かってるけど、限界、なんだよッ…!」

ドサッと視界が逆転し、ベッドに組み敷かれてあいたたと目線を上げると、酷くギラギラとしたサスケが私を舐めるように見下ろしていた。以前よりさらにイタチに似てきたなあと思いつつ、しょうがないから相手をしてあげるよ、なんて、サスケの首に両腕を回して引き寄せた。

2014.04.27

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