知識

「ねーキーちゃん、この薬草の粉末なんだけどさあ……って、あれ〜?シノじゃない。何やってんのお?」
「来てるって言ったじゃんか!」
「忙しい所申し訳ない。怪我を見てもらいたい奴がいるんだが…」

殆どの工程も終わり、仕上げに足りない薬草の粉末をキーちゃんに頼もうかと1階に降りた瞬間、目の前に見知った顔がいた。7色に輝く物体を手に持つ油女シノ。時々虫の調子が悪かったりするとここに来るのだが、手に持つその虫はいつもシノが扱っている虫ではなかった。

「なあに〜?珍しい子持ってるねえ」
「足を怪我しているんだが俺の一族で処置をするのは難しかった。だからセナさんの所でお願いしたい」
「え〜?!今は立て込んでるんだよお〜!!その子ナナイロヘラクレスでしょお?確か奥の本棚に天然記念物ノートがあるはずだから、それ見ながらシノが処置してくれるかなあ?」
「それはできない…何故なら俺はもうすぐ任務だからだ」
「ん〜…じゃあ本棚にある隣のケースの中に入れといてくれる〜?用事終わったら診るからさあ」
「分かった」

私が指を差した先にある透明なケースを視界に入れたシノは、そのまま奥の棚へと歩いて行った。今日に限って人が来るんだから…って私休日ほとんど病院いないんだったっけ。あはは。ナナイロヘラクレスをケースにそっと入れたシノは名残惜しむような眼差しを透明ガラス越しに向けている(サングラスしてるから分かんないけど、雰囲気的な)。いやあんた恋人か。虫が恋人なんてシャレになんないよお、せめて人間にしときなさいっ!…という心の叫びは置いといて、呆れたように乾いた笑みを浮かべながらキーちゃんの場所へと視線を変えた。

「それでさあキーちゃん、これと同じやつまた採ってきてくれない?」
「え?ちゃんと分量分採ってきたはずだけど…足りなかった?」
「ううん。もう少しあれば改良できそうな気がするんだあ。猛毒蛇の抜け殻に含まれるデンドロトキシンなんだけどさあ……」
「ふんふん…」

自分の考えをキーちゃんに伝えると納得したように感嘆の溜息を吐き出していた。テンゾウの体が動かないのは、無理なチャクラの放出が主な原因だった。普通なら全てのチャクラを使い切ってしまえば死ぬというのは忍世界で普通の考え方だが、テンゾウは暁メンバーの"ゼツ"という男の力の強化の為に外道魔像に組み込まれていたそうで、その為一応殺されずには済んだが、死の間際で幾度もチャクラを温存するような術をかけられていたらしく、チャクラを少し温存しては放出するを繰り返した体は、とうに限界を超えていた。そして無事テンゾウが里に帰ってきてから、彼はずっと集中治療室にいる。この薬を改良することで体が復活する可能性が少しでも上がるなら。

「…成る程ね、そういう考え方があったわけだ…でもそれじゃあ数式計算が雑過ぎる。薬の調合中に空気濃度が変わってセナに影響が出るかもしれないわよ」
「う〜ん…」
「…シカマルに当たってみる?」
「あ!!それいい考え〜!!!」

ぽんっと手をたたくと奈良家の1人息子を思い出して笑みを浮かべた。シカクさん並み、最近じゃそれ以上とまで言われる彼の頭を借りればいけるかも!!キーちゃんの言葉に納得した私は支度をする為に2階へ登ろうと足を急がせる。が、あれ?そういえばなんか忘れてる気がする…なんとなく奥の棚へと目線を向けると、今だナナイロヘラクレスを眺めるシノがいた。

あ…完全に忘れてた……もしかして気配でも消してたあ…?んなわけないか…あちゃあと苦笑いを浮かべるも、とりあえずまだいいかと私はバタバタと音を立てながら階段を駆け上り、今までの工程を適当な紙に書き出した。

2014.04.23

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