お客様は変質者?

「セナー。ちょっと休憩したらー?」
「今1番真面目なとこ!!!」

ほんの少しずつ液体を混ぜながら、必死に目を見開いきつつ後ろからひらひらしながら寄ってくるキーちゃんを一喝した。決して怒ってるわけではない。材料集めるのも大変だから、失敗するのが嫌なのだ。その材料集めは私がキーちゃんに頼んで任せっきりだし、怒るべきは私ではないんだけど。

「……よーし、第1段階完璧…!」
「終わった?」
「とりあえず終わったよお、でも第2段階にすぐいかないといけないから、キーちゃんアッチに戻ってていいよお?」
「む、だーかーらー!私はセナを見守る為にいるんだってば!口寄せの術は解かないよ!」
「だったら向こう行ってて〜!」

目の前でひらひらされるとこっちも集中できなくなっちゃうからあ!と言いながらキーちゃんの羽をやんわりと掴んで追い出し、ぴしゃりと2階の扉を閉めた私は1つ息を吐いて第2段階に取り掛かった。

実はというと、私は口寄せの術はできない忍だ。幼い頃に術を練習したことがあるらしいが、そんな幼かった頃の私が簡単に習得できる術ではなかった。契約の名前だけは母上のおかげもあり自筆していたそうだが…では何故キーちゃんがここにいるのか。それはキーちゃん達チョウチョの超偉いチョウチョさんが私が木の葉に来て生活を始めた時に突然現れ、突然キーちゃんを私の前に逆口寄せしたからだ。キーちゃんはあれから自分の住んでいた森へは1度も戻っていない。私を護る為にここにいるとの1点張りで、何があっても口寄せを自分で解くことは1度もなかった。

「2対3…4分の1……こっちの比率が…」

各薬品を少しずつ混ぜ合わせながら色の変化を見て緻密に比率を計算していく。あとは猛毒蛇の抜け殻から取れた粉を入れるだけだ。しかしこの分量が多くても少なくても完成しない。ぴったりしっかり27g。この数字こそ絶対に間違えられない。

「セナー、シノ君来てるよおー」
「今は無理だからあ!!」

キーちゃんの声にぱっと粉に手を翳して口を開くと、粉が息で吹き飛んでないのを確認してから自分の口にマスクがしてあることに気付いた。あー。余裕ないなあ…もう…。苦笑いを零すと気を取り直して粉に手をかけた。








「…というわけでちょっと今立て込んでるんだよね」
「虫の様子を診てほしかったのだが…」
「セナは人も動物も虫も診れるもんね。また言っておくよ。ごめんね?」
「キンさんでは診てもらえないだろうか。何故ならこの虫は国の天然記念物でもあり、貴重な虫だからだ」

そう言いながら目の前でゆっくりと手を差し出すゴーグルの男・油女シノは、カサコソと動くそれに目を向ける。光の当て具合で背中の色が変わるナナイロヘラクレス。キンはおおっと歓声を上げながら、ひらひらとナナイロヘラクレスの側に寄って行った。

「すごーい!!初めて見た!!ナナイロヘラクレス!!どこで見つけたの!?」
「家の大きな木に登ろうとしていた所を見つけたんだが、この左の後ろ足が怪我しているみたいで全く登ることができず、放っておくわけにもいかなかった」
「天然記念物だもんね、あれ?天然記念虫?まあいいや。っていうか私!?」
「キンさん達忍蝶は虫のことによく精通していると聞く。虫だけに」
「一言余計だし。う〜ん、診れないこともないけど的確に治療してくれるのはセナだよ。私こんなひらひらしてるし、ナナイロヘラクレス意外に大きいもん。それに私力も無いし」
「だったら少し待つくらいは構わない。何故なら俺はこいつを助けてやりたいからだ」
「まあそういうんならいいけど…だったら私も暇だから話し相手になってよー」
「俺でいいのか?」
「え?なんで?」
「俺は仲間からも割と空気のような存在にさせられることが多い。いや、仲間達に悪気があるわけではない。俺の存在が薄いのが原因かもしれないと最近考えている。そんな存在の薄い俺と会話を楽しむということはできない。何故なら存在が薄いという文字通り、キンさんがまるで独り言でも言っているような錯覚を起こし「ちょっとちょっと長いから!!長い!!」…そうか」
「相変わらずなのねシノ君…ネガティブなの?なんなの?ダメよーまだまだ若いのにそんなダークな発言しちゃ!とりあえずその変質者みたいな格好からどうにかした方がいいわ!」
「…」

悪気のないキンの言葉がさくっと心臓に突き刺さったシノは、びしりと動きを止める。変質者という名のエコーがシノの耳に鳴り響いているとは梅雨知らず、キンはシノの肩に止まってパタパタと羽を休めていた。

2014.04.21

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