狙われる"器"

「なんで顔がないのよキモイ!!!」
「…ハッ!!まさか髪の毛のない後ろ頭…!?」
「ちゃんと見なさいよ体は前向いてるでしょ!」

テンテンさんとリーさんの漫才もどきを耳に入れながら周りを見渡す。人間にあるはずの目、鼻、口があった形跡がない気味の悪いそれは、確かにあたし達と同じ"ヒト"の形をしていた。いや、むしろ"ヒト"と呼ぶべきなのかもしれない。でも、どうして鼻や目がないのに的確にあたし達の方へ暗器を投げつけることができていたのか…目線を謎の女へと戻し口を開こうとした瞬間、我愛羅様の声が響いた。

「…そこのお前の術か」
「さあー…どうだろうね?」
「視覚もない、嗅覚もない。そんな奴等に何かしらの指示を出せるのは今見ている限りお前だけだ」
「…まあ、そりゃそうか」

軽く鼻で笑ったその女が両刃の刀を構え直したのを見て、あたしは両手で印を組んだ。さっきこの人が言っていた"術が効かない"というのが虚言なのか真実かは分からないけど、やるだけ価値はあるでしょ。右手の人差し指と中指を折り曲げ、その間に左手の人差し指と中指をー…と、術をかけようとした時、目の前をサラサラと砂が通り過ぎ、同時にあたしの体が動かなくなった。

「マトイ、そいつは俺がやる」

もちろん、もしかしなくても、我愛羅様だった。

「ちょっと何がしたいんですか!?敵に加勢でもしたいんですかー!!?」
「マトイは下がっていろ」
「なっ…!!?」

そのまま砂で持ち上げられたあたしは、何時の間にか真後ろにまで迫っていた我愛羅様の後ろへと移動させられた。なんで!!?この人なんで自分に全くカンケーのない所にまで足突っ込んでくんの!!?そもそもかかわってほしくないアピールもめちゃくちゃしてたのに、どうしてむやみやたらにマイスペース踏み荒らしてくんの!?ほんといい加減にしてくださいよ!!…と言いたかったが、恐らくあたしが騒ぐ予想がついてたのだろう、ただいま砂で口を塞がれています。どっちが悪者なのか分かっているのかな?

「"好都合だから連れて行く"とはどういうことなのか、説明してもらおうか」
「…!」
「そんなに大きな声で喋ってたつもりはないんだけど」
「"第3の目"が全てを見、読話した」

この人平然と読話とか言ってるんですけど。「なるほどね」なんて納得してる敵の方には悪いけどあたし全く納得できてないからね?そう言いたいあたしの鋭い目線なんてこれっぽっちも気にしていない我愛羅様は、女の仮面に向けて砂を向けた。しかし易々と盗られる訳もない。女は素早く砂から逃れると、軽やかな足取りで大きな木の上へと飛び移った。

「…マトイが"封印の器"だから狙っているのか」
「答える必要なんてないでしょ。大体貴方砂隠れ風影なのに、どうして木の葉の忍を気にする必要があるんだか…」
「我愛羅!!そっちは大丈夫か!!?」
「こいつらすごい、かなり武器の扱い、慣れてる、!」
「あれっ!マトイさんはなんで砂に巻き付かれてるんですか!?」
「ふぁふぁひふぁひーはっ!(あたしが聞きたいっ!)」

中々砂に解放されずにもがいていると、周りから声が上がる。ふと見てみれば、刀や剣に圧されているテンテンさん達の姿があった。あたし仲間に拘束されてる場合じゃない気がすんだけどね!!

「悪いけど捕まえられる程簡単な敵じゃないから、私。それと、狙った獲物も逃したくはない性格なんで」
「残念だがそれは俺も同じだ」
「" 要石マトイ 私と来るでしょ? " 」
「!?」

そう女に言われた瞬間、今まで考えていた事や我愛羅様にイライラしていたことが一瞬で頭の中から抜け落ちた感覚に陥り、自分を見失った。

2015.08.07

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