ファースト・コンタクト

突然頭を抱えて顔を歪めるマトイに俺は慌てて近付き手を伸ばした。これまで飄々とした態度で接していた彼女が、これ程までに苦痛の表情を浮かべるなんて思っていなかった。

「マトイ!どうした!?」

肩を掴んで頭を支えると、意識を失ったマトイの顔は青ざめていた。一体何がきっかけでこんなことになった…?!俺は、ただマトイに、昔お前が声をかけてくれたことに感謝を述べただけで…!ひとまず病院か、近くに待機しているだろう暗部を呼ぼうと声を上げようとした瞬間だった。マトイの身体からじゅわりと滲み出る深い緑色のチャクラが彼女の身体を包み込んでいた。

「…!?」

大きく、また威圧にも感じるそれはマトイをしっかり包み込むと、今度は包帯を巻いた両腕からグロテスクに光りだした緑色に目を向ける。一体何が起こっているのかと理解をする前にマトイの横に現れた、尻尾のような蛇と甲羅を持った亀両方の鋭い視線を受けて、俺は小さく唾を飲み込んだ。

「…マトイから、出てきたのか…?」
【 マトイの記憶を無理矢理呼び起こそうとしおって… 】
「玄武、なのか…」

しゅるしゅるとマトイの身体を蛇で巻きつけて俺の腕の中から掻っ攫っていくと、さっきまで俺がいたベッドの上に静かに寝せて溜息を吐いていた。当たり前だが本物は初めて見た…これが火影の言っていた、玄武…貫禄が凄い。第4次忍界大戦で死闘した十尾やうちはマダラとはまた別格のチャクラの圧に、無意識の内に背中を小さく震わせた。

【 なんだァ?一国の影が鷲相手に何をビビっとるんだ…呆れるのォ 】
「…マトイが突然意識を失った…!」
【 見れば分かることだのォ 】
「頭を押さえていた…何か、病気なのか…?」
【 病気、なァ…… 】
「お前なら何か知っているんじゃないのか、玄武」
【 マトイは病気なんぞもっとらんわ。言うなら風影、お前の所為だろうよォ 】
「俺が…?」

玄武の発言に動かしていた口を止める。俺は、何も……そう言いかけた所で玄武が態とらしく大きく溜息を吐いた。

【 マトイは過去に自分の身に起こった出来事を忘れておる 】
「…!まさか、俺と出会った時のことか…?!」
【 まァ、そういうことだ 】
「何故だ…何か術でもかけられたということか?あの時、マトイにそうする必要があったということなのか?!」
【 落ち着け…1人のオンナ如きにみっともなく取り乱すな、お主風影だろォが 】
「…」
【 そうだのォ…マトイ……というより、それこそ1人のオンナとしては、記憶から消し去りたい過去だっただろうなァ… 】
「どういう意味だ…?」
【 お前が過去を思い出させるようなことを言って引っ掻き回すからマトイがこうなったんだろォが!! 】

玄武の怒声が部屋に響き渡る。荒く息を乱してズシリと俺に迫る目に奥しそうになったが、玄武が言うマトイの過去の真実を知りたくてギリリと右手を握りしめた。

「…全部、知っておきたい」
【 まだ言うか小僧!! 】
「俺はマトイが好きだ…辛かったことも、悲しかったことも全部一緒に背負ってやれる自信がある。…かつて、マトイが俺を救ってくれたように」
【 フン……恋愛に鬱つを抜かす風影等に、マトイを任せられると思うか? 】
「信じてくれ」
【 無理な願いだなァ…分かったらとっとと諦めろ。それと、お前と出会った時の話をマトイには今後一切するな。もしまた同じようなことがあればその時は…鷲がお前を殺しに出るからのォ 】
「……」

殺気を帯び始める目に、俺は対抗するように眼光を鋭くした。そして、中の様子がおかしいと気付いたらしい暗部が部屋へと姿を現した瞬間、玄武の姿は煙すら残さずに綺麗に消えていた。

2014.11.15

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