かわせみ一族

「この術…耳鳴りの術でしょ…!?どうして木の葉の忍である貴女が扱えるの…!?」
「氷ノ手!いいからさっさと早く行けって!」
「はあ…やっぱり光の国に関係のある一族みたいですねー…えーっと、貴女は氷ノ手さんって言うんですかー?」
「………貴女こそ…一体誰…?!」
「おい!!」
「うるさいですよー静かにしててくださいヨタさん」

長い漆黒の髪の毛を片側で3つ編みにした"氷ノ手"と言う女性の近くで、這いつくばりながら大きく騒ぐ切れ長目の狼みたいな男・ヨタに対して術をかけると、ガリッと笛を咥え直し息を通す。

「ぐ、ああ…!!!」
「ねーマトイちゃん、この人達誰ー?!」
「砂隠れの里で盗み働いてた盗賊らしいよー」

口寄せであるルミネっちが巨体を駆使しながら盗賊達の動きを止める中、くるりとあたしに振り向いて大きく声をあげた。だが、まったりとしたあたしの空気感に氷ノ手さんはイラッとしたらしく、吠えるように荒々しく声を上げた。

「ちょっと!!私の質問に答えてよ…!!"やっぱり光の国に関係のある一族"ってどういう意味!?」
「……要石マトイ。あたしの考えが当たってればの貴女達と同じ出身ですよー」
「「「!?」」」

そう言ったあたしの言葉に全員の目が驚愕の色を宿す。やだなーそんなにじっと見ないでよ照れるー…なんて言える状況ではなさそうだなあと深く溜息をつき、ゆっくりと氷ノ手さんの側に近付いた。

「光と修羅の戦争で光は全滅したって聞きましたけどデマでしたかー?」
「確かにここにいる全員が光の国にあるコウの里の出身よ…でも、私達"かわせみ"一族はずっと色んな所を放浪していたから…コウの里にいることは殆ど無かったの」
「かわせみ一族?…無いってどーいうことですかー?」
「氷ノ手!余計な話をするな、そいつが本当に要石一族なのかわからねーだろ!大体お前は…!!」
「術が本物かくらいヨタ達にだって分かるでしょ!」
「っ…」

氷ノ手さんの声に押し黙ったヨタさんを見て何かを頷くように首を縦に振ると、ふっとその目をあたしに向ける。その目はどうしてかあたしを見て、悲しみに懐かしんでいるようだった。

「なんですかー?」
「…要石一族の1人と私は深い関係があった。よくよく考えて貴女を見れば分かる…貴女はあの人に似てる」
「……」
「光に当たると深緑の瞳に見えるのはあの人そっくり」
「………父の知り合いですか」
「ええ」

確かに聞こえた答えに思わず顔を顰めると、咥えていた笛を口から外して懐に入れた。…別に自分の親の話しなんて聞きたくないんだけど…

知り合い。女性である氷ノ手さんと深い関係があった。あの人と同じ瞳。‥それ以上聞かなくたって分かる。この人は父と体の関係を持っていたんだろう。それが里の為だったのか偽りの関係だったのか、はたまた"愛"と証される関係だったのか…だがどの関係であったとしても、2人の間に産まれた子は"男の子"であり生涯を共にすることはできなかった。父はどうだったか分からないが、この人は確かに父を……

「………ばっかみたい」
「え…?」
「なんでもありませんよー。それよりヨタさんのその攻撃的な目どうにかしてくれませんー?あたしはそのお金のことなんて2の次なんですよー、それよりもそのお金の"目的"が知りたいんですー」
「誰が話すか!俺達だって光の国に住んでいた住民は全滅したって聞いてる!!それより…コウの里出身である筈の要石一族のお前が、なんで木の葉の忍なんかやってんだよ!」
「あたしは木の葉に預けられたんです」
「…誰に?」
「あたしの掴んでいる情報では…"焔 ヒグレ"」
「ヒグレ様に…!!?」
「それに…木の葉とコウは友好関係にあったと聞いてますけど」
「はァ!!?」
「ねえ、この人いちいちうるさいよマトイちゃん」
「んーあたしも今そう思ってたとこー」

ルミネっちが呆れたように嘆くのをぼんやりと見ながら、押さえつけられながらもじたばた暴れるヨタさんや周りの男達を視界に入れて、面倒くさいなーとがっくり肩を落とした。

2014.08.24

prev || list || next