欠落

「で、どこに行けばいい」
「勝手に外に連れ出しといてよく言いますよねー!」
「俺の力を借りないつもりなら、この件については砂の忍に任せてもらおう」
「ああ言えばこう言う!!!」
「それはお互い様だな」
「むっきーーーー!!!!」

何故か手を引かれて連れて来られた商店街の一角で、思い出したように我愛羅様が私に振り向き口を開く。目深く被った笠で、周りの人達には自分が風影だとバレていないと思っているようだが、ここは木の葉ではないしそもそもそこらの忍とは威圧感が違う。ほぼほぼバレてるだろこれ。

「あれって風影様よね?」「笠被ってても素敵ねえ…」なんて聞こえてくるひそひそ声は空耳ですかー?空耳じゃないですよねー?…というような、じっとりとしたあたしの視線を気にすることなく我愛羅様は涼やかに話しかけてくる。

「はぁ…そんな深く笠被っててもバレてますからね、風影様だーって」
「そうか」
「…あたしはこれから里をのらりくらりとお散歩しながら情報を集めますいいですかお願いですから邪魔をしないでくださいしゃべられると気が散りますもちろん、」
「口を開かなければいいのか」
「隣を歩かれても気が散りますって言ってんですよ!」
「散歩か、いいな」

もーなんなのこの人。もうあたし疲れました、疲れましたよ。もう口も開きたくないほどに!!掴まれた手をばっと振りほどいて、ほんの少しばかり驚く我愛羅様を視界に入れる。あ、その顔初めて見た…って違うわ!!

頭を振って素早く印を組むと、目の前に立つ我愛羅様を残してあたしはその場を離れた。最近あの人のおかげですごく取り乱してる気がするんですけど!!

「…俺を頼れと言っているつもりなんだが……強情な奴だ」








「…んなんだってのよほんとに」

とある服屋の物陰からこっそりと顔を出して、きょろきょろと周りに気を配りながらそろりと足を踏み出した。いつも着用している木の葉の中忍ベストじゃあここでは目立つしすぐにあたしであることがばれそうだと、瞬身の術で飛んだ先にあったお手頃価格そうな服屋へ駆け込んでいたのだ。履きなれないズボンが気持ち悪いが仕方ない。黒のキャップを被り、タートルネックの上から安い男物の長袖シャツに腕を通して、こっそりと片手印を組んだ(今の今まで着ていた忍服はもちろん巻物の中である)。

「…あんなに無駄に構われてあたしもおかしくなってるんだきっと。落ち着け落ち着けー今は任務中、任務中…」

自分に呪文をかけるようにぶつぶつと呟き、周りの人達の様子を伺いながら歩く。ったく本当に、本当に我愛羅様はしつこい。なんで諦めてくれないんだ…嫌だって言ってるのに…最早ストーカーに近いんじゃないか…

「俺はマトイが好きだ」

「……よく分かんない」

ふと思い出したあの日の我愛羅様が脳裏に蘇る。知り合いだったらしいという経緯はとりあえず置いといても、あたしはどうしても我愛羅様が感じている感情はよく分からないし、理解したくもないと思う。人なんてそんな感情なくても生きていける。それにその感情を知ってあたしになんの得があるんだろう、我愛羅様になんの得があるんだろう…

パパとママどっちが好きー?
ママ!
……!!
ほら、やっぱり私の方が好きなのよ、うふふ
でもパパもすきだよー!ママのつぎに!

「………」

術で聞こえてきた見知らぬ家族の声に思わずハッとすると、少しだけ下唇を噛んで揺らしていた目線を一瞬下へと落とした。

2014.08.03

prev || list || next