ゆらゆら、ゆらり

「あー……まあ砂の事件だしー私のこと信頼しにくいってのもよく分かるんですけどー…」
「1人で調べるつもりか」
「…」
「そんな危険なことはさせられない。金品を盗む盗賊とは言っているが腕の立つ忍じゃないとは言い切れない」
「大丈夫大丈ー夫、あたしには耳鳴りの術がありますからー。相手が誰であろうともなんとかなりますってー」
「…これは砂隠れの問題だけではないと言いたいのか」
「な…に、をどう聞いたらそう解釈できるんですか…」

トン、と机に両肘を置いてじっと見つめてくる我愛羅様に、ぎくりと背筋を強張らせ私は僅かに口を引きつらせた。誤魔化すように頬を人差し指で掻くと、後退りしかけた足を我愛羅様の砂が引き止める。

「とにかく……ここは風の国、砂隠れの里。お前の一存で手を引くことはできない」
「…」
「……だが…」
「?」
「俺に手を貸せ、と言うなら話は別だ」

不敵な笑みを浮かべた我愛羅様に、心底呆れて深い溜息を吐いた。つまりは、「俺に全ての経緯を話して協力させろ」と言っているのだ。いやだからさ、この人あたしの話し聞いてたよね?この件については手を出さないでほしいって言ってるんだよー?

「……」

そう告げようとはしたが、この人は恐らく全てを理解した上であたしを脅しているのだ。達悪いお偉い様だよ本当…

「……はあ、わーかりました。でも協力は結構です、っていうか大体我愛羅様勝手が出来る立場じゃないですよねー?」
「お前の為ならどうにかしよう」
「何その上から目線……とりあえずこの砂、どうにかしてもらえませんー?…うわっ!」

足に纏わり付く砂を叩こうとするも、ぐいぐいと引っ張られたことで体制を崩してしまい、我愛羅様が両肘をつく机に思い切りダイブしてしまった。顔面を打ち眼鏡が割れる覚悟をしていたが、それは我愛羅様の手があたしの肩を掴んだことによって免れたものの…

「………わあー顔が近い」
「今まで1人散々無茶をして来たとも聞いたが間違いではないようだな」
「まーた綱手サン情報ですかー…もう飽きました…」
「術で入手した情報を教えてくれ」
「…他言無用ですよ」
「分かっている。…皆には上手く伝えておくから安心しろ」

先程の不敵な笑みから一転して呆れたような笑みを返す我愛羅様に、何故だか胸の何処かが捻れたような小さな痛みを覚えて眉を顰めた。ほとんど無表情の彼が時折見せる人間的な表情に、あたしは自分の中の何かを揺さぶられているような気がしたけど、そんなことあるわけがないと頭を2・3度机に打ち付けた。








「何かを取り戻す為の金、それは修羅の国付近で取引される。だからマトイは修羅との戦争を引き起こしたコウの里も何か関係があるのではと踏んだわけか…だがコウの里についても修羅の国について内情や事情を知る者はほとんどいない。一々説明をするのも大変だと思い1人抱え込むことを決めた、と」
「説明をするのが面倒だったんで1人勝手に調べようと思ったんですー、そんな善人ぶった言い方に変えないでくださいー」

全てを説明し終えた後、納得したような頷きを見せた我愛羅様に、あたしはぶすっとしながら打ち付けた頭を手で何度も撫でていた。結局話してしまった…と後悔してももう遅い。ま、どうせこの人のことだし、遅かれ早かれこうなることにはなってたかもしんないけどー…

「それでどうするつもりだ。金が必要だったとは言え泥棒は泥棒。被害分は俺が負担しているが…」
「わーさすが風影様ー。とりあえずそれで落ち着かせといてくださーい」
「…」
「じ、冗談ですって…でもそれは相手捕まえてからにしましょうよー。とりあえず今分かっていることは、"お金と引き換え"と"引き換え場所が修羅の国門前跡"と"ヨタ"」
「…目星が付いてるとは言えもう少し情報が必要だな」
「分かってますってー。あ、今日はもうリーさんもテンテンさんも待機させてる砂の忍さんも解散させてくださーい。あたし1人で動きますんでー」

1人ぺらぺらと喋っていると突然ガタンと立ち上がった我愛羅様が風影室のドアへと向かって行く。あれ、どこ行くの…?ぼんやりとその様子を伺っていると、徐にドアを開けた我愛羅様は廊下で軽く談笑していたお姉さんへと声をかけていた。

「テマリ、カンクロウはいるか」
「ちょっと!?人の話し聞いてますー!?」
「カンクロウならアカデミーの会議に出ているが…」
「今からマトイと出掛けてくる。資料を任せたとカンクロウに伝えておいてくれ」
「分かった。…誰か連れていかないのか?」
「いい。マトイがいる」
「全力でふざけないでもらえますかー!!??1人で行くって言ってんですよーー!!!!」
「なんだかんだ言ってなんか仲良いわねーあんた」
「テンテンさんの目は節穴ですねよく分かりました!」
「行くぞマトイ」
「…!!!!」

何故かあたしより先に歩き出す我愛羅様に手を引かれ、ぱくぱくと口だけを動かしながら声にならない叫びを上げる。握られた手を見たテンテンさん達がニヤニヤとしていて腹が立ったが、風影様を殴る訳にも行かずにあたしの握られていない方の手は宙に浮いたま行き場を無くして彷徨っていた。

2014.07.24

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