複雑な影に手を伸ばす

よし、金はばっちりだな
…ねえ、本当に大丈夫なのかな…
今更何言ってやがるんだ、お前
だって、これで本当に返してくれるの…?
それを信じるしかねえだろ、向こうも金がいるからって飲んだ条件なんだ
……
必ず取り戻す、そう俺達は約束したろ
……う、ん…

「………」

盗賊と思われる声を発見して数10分。あたしはいくつかの声を耳に入れて思わず瞼をぴくりと動かした。金品を盗む理由の全てを聞けた訳ではないが、会話からして恐らく"何かを取り返す為"に金品を盗み金に変えているんだろう。

砂隠れにもう用はない、捕まらないうちにここを出るぞ
引き換え場所は修羅の国の門前跡だな、金を忘れるなよ
…ヨタ、やっぱり罠かもしれないよ…!
アイツの手中にあるのは確実だ。罠だったら戦う…皆覚悟はしておけよ!
おお!!!
……ヨタ…

「…よく分かりませんな」
「あれ、マトイ終わったの?」
「んー終わったというかねー…」

静かに目を開けると、リーさんに愚痴を零しているテンテンさんの姿が見えた。それにしてもなー…金品盗むのは悪いことなんだけど話しを聞く限りだと妙な訳ありっぽいんだよねえ…だって修羅の国って言ったんだよ?修羅の国は"あの人"が暴走してから人なんて誰もいない筈。なのにわざわざ修羅の国で引き換えなんて…

「何か分かった?」
「ん?んー…分かったような分からなかったような?」
「…下手な嘘やめなさいよ、あんたがなんの情報も得られない訳がないでしょ」
「テンテン、マトイさんも人間です、そういう時だってきっとありますよ」
「お、たまにはリーさんも良いこと言う!」
「で、言えないことなのか?」

イラッとしたテンテンさんの顔を見て怒鳴り声がくる!と思わず耳を塞いだ瞬間、岩の裏に隠れていた砂の暗部3人とテマリさんが突然テンテンさんの隣に現れた。もちろん話し声は丸聞こえだったからね、いるのはばれてましたよと言わんばかりにドヤ顔をかますも、軽くスルーされてしまった。

「あー…」
「お前には今回任務で来てもらっているんだ、分かったことがあるならちゃんと報告してもらわないと困る」
「分かってますよ‥直接我愛羅様に報告しますんでー」
「?」
「だからそんなに怖い顔しないでくださーい」

それぞれ顔を見合わせてはてなを浮かべる面々に苦笑いを零すと、よっこらしょと重い腰を上げる。‥話しの内容が表向きではなさそうだ。ここで変なこと言ったら色々説明しなきゃいけなくなる。なんだか面倒くさいことになりそうだなあと思いながら頭を掻いて、今だ頭を傾げているテンテンさん達を残しあたしは風影邸へとゆっくり歩き出した。









「今回のことについて手は出さないでほしい?」
「あー、まあ、はい」
「何故だ」
「それは説明すると面倒なんであたしに免じて」
「…」

1人風影邸へと到着し、遅れて来たテンテンさん達を部屋に入れないでほしいという旨を我愛羅様に伝えると、何かを察したのか了承してくれた。そして、あたしが我愛羅様に告げた言葉は冒頭の通りだ。

「店や一般市民にも被害が出ていると言っただろう」
「分かってます、分かってますよー。まあでも、盗賊にも何か理由があっての犯行っぽいんですよねー…」
「理由?」
「理由がないと金なんか奪いませんって。それが私利私欲なら別ですけど、大事な何かを買う為というか引き換える為というか…」
「どういうことだ」
「詳しく内容を言っていた訳ではないですからねー、もうちょっと調べないと核心的なことは…なんとも」

あたしの言葉で腕組みし考えこむように顔を下に向けた我愛羅様に、砂の忍ではないあたしが砂隠れの任務に手を出すなって言うのはおかしいよなあ‥と溜息が出た。

2014.07.22

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