男と女、1つ屋根の下

「じゃあイズモとコテツはもう知ってるってわけね」
「はい」

口布をしたまま器用に食べるカカシ先輩と夕飯を共にし今日の出来事を思い出す。紅先輩と会ってアスマ先輩のお墓参りに行って、服やらなにやらを買い込もうとしている途中に出会ったイズモ先輩とコテツ先輩の話し。あの後もごもごと2人で話しながら顔を青くしたり赤らめたりなんだか大変そうだったのを覚えている。結局名残惜しんでいた2人ともそこで別れて私は紅先輩との買い物を楽しんだ後(むしろ楽しんでいたのは紅先輩だが)、ミライちゃんを迎えにカカシ先輩の家に戻り紅先輩を送り届けたのだ。

「っていうか、朝食べろって言ったのに結局食べてなかったでしょ…その痣栄養失調の類らしいじゃないの。ちゃんと治さなきゃダメだよ」
「今食べてますからご心配なく」
「全く…あ、ウマイ」

食卓に用意された鶏の炊き込みご飯、茄子の味噌汁、法蓮草のお浸し、牛蒡とツナのサラダは私のお手製だ。カカシ先輩の家に一時避難とはいえ何もするわけにはいかないと料理は任せてもらうことにした。元々1人暮らしが長かったのもあり料理には結構自信があったりする。しかし私の目の前には茄子の味噌汁はない。茄子は食べた時にぐちゃぐちゃっとしてて…正直苦手な物。じゃあ何故茄子があるかという質問は愚問だ。一応カカシ先輩にいろんなお礼を込めて作っているので変な追求はしないでほしいんだけど…

「ウミ、なんで茄子嫌いなのに茄子の味噌汁なんか作ったの?」

ご飯に入っている鶏肉をもぐもぐと食べながらちらりとカカシ先輩の方に目線を向けると大体言いたいことが分かっているのか"にっこり"という文字が頭の上に見える程にこやかに笑っていた。

「その顔は分かっていますよね。そういうことです、というか分かってるならわざわざ聞かないでください」
「えーウミの口からわざわざ聞きたいのにー」
「…先輩のお皿片付けますよ」
「いやまだ食べてる途中だから」

無駄口を叩く先輩を無視して自分の使った食器を片付けると、今のうちにお風呂を頂くことにして新しく買った下着をタオルに隠す。そのまま脱衣所に向かおうとした途中でカカシ先輩に呼び止められた。

「待ちなさいよ、お前傷は大丈夫なの?」
「掛け湯だけですから。それに傷は清潔にしておかないと後が怖いんですよ」
「ま、それもそうか…」

何か脱力したように頬を人差し指で掻くカカシ先輩に首を傾げたが気を取り直して脱衣所へと向かう。お風呂は好きな方だが任務中はほとんど使えなかった為、久しぶりにゆっくり出来ると手に持つタオルを抱え込んだ。








「ここから理性との戦いが始まるわけね…」

脱衣所に向かって行ったウミを見ながら味噌汁に入った茄子を転がす。昨日はややあって1日が早く終わってしまったが今日はそういうわけにもいかないだろう。何せお風呂という理性の試される一大イベントがあるわけだからね。慣れるまでは大変そうだ。いやむしろ慣れることができるのか…。ウミの作ってくれた料理を食べ終わると食器を洗って片付ける。茄子の味噌汁は恐らくこの家に置いてくれている俺へ、ウミなりの感謝の気持ちだろう。本当に素直じゃない、素直じゃないけど可愛い奴だと思わざるを得ない。

ザーザーと水の流れる音が聞こえる。俺は気を紛らわせる為に愛読書を読もうと開くがこの状態からこれを読み始めたらマズイ気がすると思った瞬間に思いっきり閉じた。ああ、落ち着かない…

イズモとコテツが顔を赤らめた理由をあいつはよく分かっていなかったが、やはり俺が思っていた通りウミはかなりモテる部類だ。そう考えると溜息しか出ない。俺を(それなりに)大事な家族だと思っている分恋愛感情を抱くのは難しいだろう。もちろんその恋愛感情の矛先が向くとしたら恐らく別の人間だ。まあそりゃあ、少年が美少女になって帰ってきたら吃驚するよねぇ。

昔は女の子によくモテていたウミ。中には本当に男の子だと思っていた子だっていた。ソッチ系の類の男にもモテていたが…(俺が蹴散らしてたけど)‥っていうかそもそもウミを男の子だと思って男が恋をしてたってなんかもう色々どうなんだっていうのが‥

「先輩、どうぞ」
「……………うん」

いつの間に後ろに。ちらりと時計を見るとすでに40分以上が経過していた。俺はそんなに長い時間悶々としてたのか。ああ、少し濡れている髪もちょっとピンクに染まってるつやつやの肌もふっくらした色付く唇も全部全部俺の物にできたらどんなに幸せか。グレーのホットパンツに厚手のタイツを履いて黒のインナーにお揃いのグレーの薄い上着。身体のラインが丸分かりだ。紅の陰謀なのか、この寝巻きは。俺にどうしろと言いたいのよ…

「先輩?」
「そうだね、お風呂と俺入ろうかな」
「?…頭大丈夫ですか」
「湯冷めしないようにね」

バタン!物凄い勢いで脱衣所に入った俺はこんなんでこれからちゃんと一緒に生活出来るのかと壁に手を当てて項垂れた。

「…変な先輩」

2014.02.18

prev || list || next