なあ、親友よ。

「で、どーしたんだってばよ?」

砂でゴミを避けつつ床に座ると、コップに水を注いで現れたナルトを視界に入れる。戦争が終わりどこの里も復興に時間がかかっているが、ナルトの住むアパートはなんの被害もなかったようだ。
俺は今日久しぶりの休みで、先日マトイに結婚の申し込みに来たのは火影に密書を届けがてら木の葉に顔を出したからである。元々早く来るつもりではあったが、木の葉に行くなら丁度いいと、火影にマトイを呼び出してもらったのだ。

「ナルトはサクラに恋心があるんだったな」
「ぶっ!!」
「……」

飲んでいた水を盛大に俺の顔にぶちまけたナルトは、噎せながら顔を赤くしたり青くしたり咳き込んだり忙しそうに台拭きを取ったりと、いかにも動揺を隠しきれてないように慌てている。分かり易い奴だ。とりあえず顔にかかった水をどうにかしてほしいが。俺はポタポタと顔から落ちる水滴を拭った。

「…吹くならせめて顔を背けてくれ」
「イヤ、急に我愛羅が変なこと言うから…」
「で、どうなんだ」
「どうっつーか…もう俺は別になにも」
「そうか」
「何が聞きてーの?…は、まさか我愛羅お前…」
「…実は」
「サ、サクラちゃんが好きなのか?!!」

口を開こうとした瞬間にバンッと机に両手をついたナルトがずいっと俺の顔に自分の顔を近付けた。何を言っているんだお前は。俺がサクラを好きだと言うとでも思っているのか。申し訳ないが俺はサクラに眼中は無い。確かに優秀な医療忍者で人望も厚い、人としても尊敬できる…が、砂の盾があるとはいえ暴力的な女は好みではない。逆にナルトは凄い。あんなに強烈な洗礼を、あのお色気の術や自身の行動で何度も受けているというのに、お前はずっとサクラを一途に思い続けていたんだからな。正直に言おう、俺は無理だ。そもそもお色気の術等下品な真似もしないが。

「悪いがサクラに女としての興味はない」
「な、なんだよ…びっくりさせんなっての…」

はーーっと溜息を吐いて椅子にずるずるともたれかかるナルト。まあしかし、サクラ相手にも強ちそんな噂がないわけではない。砂の医療忍者でも彼女を尊敬し彼女に好意を抱いている者もいる。ほらよ、と渡されたティッシュで顔の水滴を拭き取りながら俺も溜息を吐いた。

「…俺は木の葉に好きな女がいる」
「へえ、木の葉に…好きな女?女?オンナ!?」
「ああ」
「ちょっ!!なんだよそれ!!?俺そんなの一言も聞いて…ああっ!!」
「騒々しいな」

何かを思い出したように頭をピコーン!とさせたナルトはビシッと俺を指差している。一体なんなんだ。そう思いつつ苦い顔を浮かべた。

「いや、つい最近さ、木の葉の忍で集まって飲み会があったんだってばよ!!あ、いや俺達はジュースしか飲めねぇけど…って、そうじゃなくてさ!そんでよ、綱手のばーちゃんがマトイがキュウコンされたとか言ってて、それ確か我愛羅だったよな!?」
「…お前求婚の意味は分かっているか?」
「マトイと結婚すんの!!?」

なんだ、わかってるじゃないか。ほんの少しだけ口端を吊り上げると、先程まで一緒にいたマトイの顔を思い浮かべる。嬉しそうどころかはた迷惑そうにしていた顔、自分の好物を美味しそうに食べていた顔、面倒くさそうに俺を見ていた顔。俺とマトイが初めて出会った時も酷く面倒くさそうだったが、同時に木の葉の里を強く思っていた。彼女は最初の出会いを覚えていなかったようだが、俺は昨日のことのように鮮明に覚えている。

「なぁ、それ、マジ?!」
「求婚したのは本当だ。それにわざわざ嘘を言いに来るわけないだろう」
「へえーー…でもマトイって木の葉の忍じゃあ変な奴だって有名なんだよなー。や、すげーいい奴なんだけどさ、シカマル並みの面倒くさがりっつーか男より男っぽい所があるっつーか…」
「そういう所も好きだ」
「…そうさらっと言えてしまう我愛羅をすげー尊敬するってばよ」
「ナルトもそうだと思うが」
「そうじゃなくて!照れもせずに言い切る我愛羅がすげえって言いたいんだってばよ!!」
「そうか」
「あー…なんかやっぱアレだ、男同士で恋バナとかすんのは疲れるっつーか…で、なんか用があったんじゃねーの?」
「いや、やはりナルトに聞くのは間違っているかもしれないからやめておく」
「何それすげー失礼だし」
「…ナルト」
「なんだよ」
「サクラにもし、一生ナルトの気持ちには応えられない、と言われたらどうする?」
「はあ?また急だな‥」
「お前の意見を聞いてみたい」
「そんなのやってみなきゃわかんねーし、最初っから諦めるくらいだったら好きにならないと思う。から、俺なら振り向いてもらえるまで頑張るってばよ!」
「……ああ、そうだな」
「って一体どーいう意味だってばよ!!あ!!我愛羅!!?」
「邪魔をした。俺はそろそろ砂隠れへ戻る。暗部も待たせているからな」
「へ?!ああーー!!待て待て!!」








砂と共にナルトの部屋を去り、暗部の待つ木の葉の里の門に姿を見せると、待っていたかのように2人の暗部が顔を見せる。

「…待たせた」
「何か問題がありましたか?」
「問題ない。帰るぞ」
「「御意」」

遠くからナルトの叫ぶ声が聞こえた気がするが気にしない。俺は口元に笑みを浮かべると、合図を出して砂隠れの里へ走り出した。

2014.04.08

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