結末は未知数

「我愛羅様ー、1ついいですかねー?」
「どうした?」

もぐもぐときな粉餅サンドを頬張りながら我愛羅様を見ると、右の口端にきな粉がついていて不覚にも吹き出しそうになってしまった。だってあの何にも動じない風影様だよ?そのエラーイお方があたしの目の前で口周りにきな粉つけながらきな粉餅サンド食べてるんだよ?あり得なくね?

…という心の独り言は置いといて、あたしの為にも我愛羅様の為にも結婚の話しはなかったことにしたいと口を開く。友達以下知り合い以下ほぼ他人。というかマジ物の赤の他人。そこからどうやっていきなり結婚にこぎつけばいいのかさっぱり分からないんだからさぁ、ていうか結婚とかめんどくさいし。まあこれがあたしの本音であるわけで。

「結婚はナイと思うんですよねぇー。だって我愛羅様あたしのことよく知らないでしょー?そのイケメン面だったら砂隠れでもモテモテパラダイスだろうし平凡中の平凡なくノ一と人生歩むのは風影的にもよろしくないと思いますよー」
「媚びてくるような女は好きじゃない。俺は飾らないお前だからこそ好きになった。里を想う気持ちが人一倍強いお前だからこそ好きになった。外見は関係ない。知らないこともこれから知っていきたい、知ればもっと好きになれる…だからお前に結婚を申し込んだ」
「…あーあれだ、我愛羅様恋愛初心者なんですねぇ…」
「初心者でも自分の気持ちくらいは分かる」
「……そんなこと言われましてもねぇ…」

大真面目に好きだのなんだの言われちゃあこちとら否定も拒否もしにくい。だってさ、一応相手があの砂隠れの風影様だよ…ぐさりときな粉餅サンドにフォークを刺すと、ていうかあの出会った一瞬で何故そこまであたしのことを分かる気でいるのかと、かくんと首を傾げた。折れる気はナシね…あたしも折れる気はナイけど。

綺麗な食べ方をしながら、一向に目をあたしから逸らさない我愛羅様の口端には今だにきな粉がついている。教えてやる気も失せるな…どうしたものかと脳味噌を捻らせていると、自分の親指できな粉を拭った我愛羅様がお手拭きで指を拭きながら、ゆっくり口を開いた。

「…マトイが簡単に首を縦に振らないことは大体予想していた」
「分かってるんなら…」
「だが…それでも俺はマトイがいいと思ってしまった。まあ、確かにいきなり結婚というのは急ぎ過ぎたかもしれないな…」
「そーそー、結婚って女にとってはちょー大事なモンなんですからねー(他人曰く)」
「だから結婚を前提に付き合ってくれないか」
「ぶっ」

大して話しの内容変わってないしね。結婚の前にお付き合いが入ってるだけだしね。結婚は決定事項だしね。口からきな粉の粉末が吹き出て噎せていると我愛羅様に暖かいお茶を差し出された。いやあよく分からない…ほんとこの人よく分からない…一言お礼を言ってお茶を受け取ると喉に液体を流し込んだ。

「そういえばちゃんと伝えていなかったな」
「はぁ…?」
「俺はマトイが好きだ」

真っ直ぐ濁りのない瞳はすっとあたしの中に入り込んで酷く綺麗な輝きを放っていた。でもそれであたしがドキドキするかと言ったら…否、だ。

恋愛毎に興味がないのは両親の影響だろう。あたしの集めた情報を整理すると、両親は2人共お互いを好きではなかったらしい。あたしが産まれたのは所詮忍の世の為。要石一族の強い遺伝子を残したかったからだった。要石一族の耳鳴りの術は諜報活動において重宝されていたコウの里きっての秘術で、父親は一族の宝と言われる程凄い忍だったそうだ。で、その父親の遺伝子を残そうと色んな女性に相手をさせたものの身籠る子が面白いくらいに男の子、男の子、男の子…結局女の子はあたしだけだった…ということだ。コウの里は女の子が貴重だったみたいでどうもそこに拘っていたらしい。まあそのDNAを受け継いだのかよくわからんが、恋愛まるで興味ナシ、ついでに勉強にも人にも興味ナシ。性格はとことんめんどくさがり(いやまあここら辺は親と全く関係ナイけど)。よって我愛羅様に好きだと言われても全然心に響いてこないわけである。完結。

「ゴメンナサイねぇ。あたしやっぱその辺の気持ちは理解しがたいんですよー、一緒にいても我愛羅様の気持ちには一生答えられない気がするしー?」
「……」
「それにあたしより賢くて可愛くて素敵な女の子なんて世の中に腐る程いますから他を当たった方がいいですよー?後悔させるのもなんですからー」
「…分かった」

お、さすがに納得してくれたか。よかったよかった。でしょ?なんて言いながら残りのきな粉餅サンドを頬張ると、さてこれで仕事は終わりだと席を立ち上がろうとした瞬間サラサラとした砂に肩を掴まれた。おお?なんだこれは…ああ、あれか、風影様…砂漠の我愛羅という名の由来。その瓢箪の砂か…いやなんでだよ!仕事終わったよ!というツッコミより先に我愛羅様が口を開いた。

「話しはまだ終わってない」
「え、そーなんですか?」
「…俺とマトイが一緒にいた時間もナルト達に比べれば遥かに短い。急に答えを出すには早すぎると思うが。それに…やはり火影の言う通りだった。お前は極端に人と馴れ合うことを避けている」
「何話してんのー綱手サンは……はぁ…まず、他人と馴れ合うのが楽しいとは思えないですもんあたし。だって疲れませんー?自分じゃない人と一緒にいるなんて。相手のこと考えながら生活しないといけないんですよー?耐えらんないですー」
「……孤独はさらに耐え難いものだ」
「干渉されるくらいなら孤独の方がいくらかマシですねー。あたしはそういう人間ですからー?」
「…」
「もういーですかね?」
「イヤだ、と言っても否定しか述べなさそうだな」
「そうそう」
「…また日を改めよう」
「えー…」
「俺が頑張るのは勝手だろう」
「はぁ…じゃあ勝手に頑張ってくださいよー、時間の無駄だと思いますけど…あ、お金置いときますねー」
「俺の奢りだ。金はいらない」
「え!ラッキー!じゃあそゆことで!おっ先にー!」

やんわりと財布を出そうとした手を止められてあたしは我愛羅様に笑みを零すと甘栗甘を早足で去った。あー、とりあえずよかった。それにしても綱手サンあたしが任務中にぺらぺらと人のことを喋って…仕事しろ仕事!だから書類溜まるんだよ!暴言をぶつぶつと吐きながら木の葉の商店街を歩く。しかしあの調子だとまた来るよねー、我愛羅様…これからは綱手サンの呼び出しに気をつけようと思いつつ、今日の晩御飯を買う為にお店へと足を運んだ。








「邪魔をする」
「いやいやいや」

ラーメン食べ始めたばっかだっての!というのはまあ置いといて、本日絶賛休暇中の俺の家に突然来た来訪者が我愛羅っつーのは一体どういうことだってばよ。玄関のドアを開けると我が家のように足を踏み入れている。いやここうずまきナルト様の家…だよな?

「相変わらず汚いな…賞味期限のきれた牛乳は置くなと前にも言っただろう」
「母ちゃんか!!っつーか一体どうしたんだってばよ?綱手のばーちゃんに用事でもあったのか?」
「いや、観光にきた」
「今更すぎるんじゃ…ま、いーや!なんか食う?この味噌豚骨スーパーデラックス濃厚ラーメンもう一つあるんだけどさ!」
「先程甘栗甘に行ってきた。腹は減ってない」
「なんだよ…面白くねーの。まあ座れって!ちょっと片付いてねーけど悪いな!」
「ゴミは片付けた方がいい。不衛生だぞ」
「だから母ちゃんか!!」

久しぶりに来たと思ったらこれだってばよ!砂でゴミを掻き出す我愛羅に俺は乾いた笑みを零した。

2014.04.03

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