想い出の最初

「うわあーすごい美味しそうな砂肝ー」

あの日。木の葉に現れた砂隠れの抜忍を風の国へ護送するという単独任務を終えたあたしは、砂隠れの里で有名な串屋へ来ていた。綱手サンには適当に任務終了報告したし(鳥で)、お腹空いたし。腹拵えでもしようと街に赴いた所、昔綱手サンが絶品だと言っていた串屋を見つけたのだ。

店内に入ると美味しそうなタレの匂いが立ち込めていて、食欲をそそる煙がまとわりつく。カウンターに座るとメニュー表からもも、ねぎま、ハツ、砂肝を頼み、だらーんと頬杖をついていると目の前で手早く焼かれていく4種の肉達。この中では1番砂肝が好きだなーとニヤニヤ顔を崩していると、目の前に美味しそうな串が置かれた。

「お嬢さん木の葉の忍だろ?ウチの店初めてかい?」
「そーなんですよー知り合いが美味しいって絶賛してたしーお腹空いたから食べにきたんですー」
「そうか!この砂肝は特に美味いんだよ、なんたって風影様お墨付きだ!」
「へえー風影様ってシブいんですねえー」

適当に店長らしき人物の話しを流しながら、1本串を掴むと口に入れて串から肉を引き抜いた。コリコリとしたこの食感、これこれ、やっぱ砂肝最高だよねー。ほくほくと味を堪能して2本目に手を伸ばしていると、深く笠を被った人物が隣の席に手をかけているのが視界の端に入った。まあ、別に隣に人居てもあたしは気にしないよ。それにしても美味い、さすが綱手サンが言ってただけあるなーと口を動かし続けていると、隣の人物が残った砂肝に目を向けていた。

「………ん…?」
「…美味いか、砂肝は」
「む、はひ、おいひーですよー。おにーさんもここはひめての人ー?」
「砂肝を5本頼む」
「あいよ!」

人の話しきーてないしー…。あたしの砂肝をガン見していた笠の人は顔を伏せたまま注文を告げると、今度はあたしの顔をガン見し出した。って言ってもあたしからは隣の人の顔は全く見えない。変な人なんだなと勝手に納得すると、ねぎまに手を伸ばした。

「…木の葉の額当て…砂まで任務だったのか」
「はーい先程任務終えたのでご飯食べにー」
「そうか」
「どーしてですかー?」
「木の葉には知り合いが多くてな」
「ふーん。まー木の葉と砂は同盟国ですしねー、貴方が木の葉の誰と知り合いでも疑問はないですよー」
「…俺は何度か木の葉に行ったことがある」
「あー…あたし忍といっても内勤なんでー見たことはないと思いますよー。あたしも貴方みたいな変な人見たことないですしー」
「…変な人」

ぼそりと呟きながらあたしの言葉を反復する隣人。ちょっと顔を盗み見ようとするもふい、ふい、と避けられる。そんなことされると余計見たくなるよーと思いながら片目を細めた。

「顔は隠してないとダメなんですかー?」
「…色々と面倒毎が多くてな」
「まーいーですよ。今は食事中だしー。でも今ここで変なことしでかしたらとっちめますからねー」
「ほう」
「木の葉と砂に手を出す奴には容赦しませんから覚えといてくださーい」

若干ドヤ顔で笑みを作れば口元を弧に描いた隣人。分かってはいたけど別に悪い人とかではないようだったので、安心して串に手をかけた。それからはお互い終始無言ではあったものの、席を離れることもなく串を食べ続けていたーー


「あの串屋の隣人さんー!!?」
「それを思い出したのか」

想定外だし、そこからどうやって恋愛感情に発展するわけー!!?過去の記憶を細かく辿ってみてもそんな要素がどこにもなくて。いやいや恋愛経験が皆無なあたしでもそんなのよく分かるっての!大体そんな甘い空気あの串屋になかったでしょー!脳内パニックになりながらもなんとか心を落ち着かせていると、定員さんがきな粉餅サンドを運んできたのを視界に入れる。

風影様…もとい我愛羅様…あたしに求婚したのは焦り過ぎたんじゃないのか…?真っ直ぐにあたしを見ている我愛羅様がきな粉餅サンドに手を伸ばした所で、あたしは大きく溜息を吐いた。

2014.04.01

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