風影の職権乱用だ!

「えーめんどくさーい」
「火影命令だぞ、このバカが!」

眉間に皺を寄せる、見た目麗しい実年齢50以上の5代目火影綱手サンは、あたしに1枚の紙をひらつかせながら怒り気味だ。だってさーこれなんて書いてあると思う?風影様と一日木の葉観光だよ?護衛任務どころか里案内とかでもないんだよこれどー思います?めんどくさいじゃなーい。

「風影たっての希望だ。お前もそんなに適当にあしらってないで少しはちゃんと風影を見てみろ」
「恋愛なんてキョーミないんですもん。あたしは花より団子派ですし?」
「お前みたいな全てにおいてやる気のない娘を貰ってくれる奴なんてこれから会えるか分からないんだぞ?いいから待ち合わせ場所に行け!」
「影分身でもいいですかー?」
「その暁にはこれから1年私の下でこき使ってやる」
「本体が行ってきまーす」

くわっ!と目を見開いた綱手サンにやれやれと背中を落とすと、火影室から出て待ち合わせ場所である甘栗甘に向かった。もう待ち合わせ場所が甘栗甘ってのがおかしいでしょー。綱手サン裏金でももらったのかね…博打で破産ばっかしてるからなぁ…

「ブフフッ…アイツ中々面白い奴じゃん…」
「テマリ、カンクロウ…我愛羅はあんな小娘のどこがいいんだ?人の下につくようなタマじゃないぞマトイは…」
「そこも気に入ってるみたいですよ。しかし…本当にやる気のなさそうな奴だな、どっかの誰かを思い出す」
「あんまり声を大きくして喋るなよ。マトイは面倒な秘術を持つ一族だからな」








「しっかり聞こえてますけどねー」

火影邸を出た後、のんびり歩きながら片手印を結んでいたあたしは、火影室から聞こえてくる3人の声に溜息を吐いた。っていうか、盗み聞きするなら気配くらい消しといてよねー。まだ復興途中の里内は色んな人が忙しなく動いている。その中でいくつかの店は開店していて、甘栗甘もその1つだ。まあ、皆の憩いの広場みたいなものだからねえ、甘味処って。

「あら、マトイじゃなーいの」
「カカシ変態上忍じゃーないですかー。またそんな本読んでー面白いですかー?」
「会ったばっかで酷いよお前」

朝っぱらから18禁の文字を貼り付けた本を片手に、半目で見ているこの人は(一応)各国で名を馳せる有名な忍の1人。ついでにゲンマ特上忍のアレだ、ええと…恋敵。自分の欲望を抑える訓練でもしてんの?と言いたいくらい毎日読んでいるその本はカカシ上忍の愛読書。違うか、抑えられてないから毎日読んでるのかー。

「いやーないわ、ない」
「あのね…ところでお前は何やってんのよ」
「風影様と1日木の葉観光という名のデート?」
「え、昨日のアレ本当だったの…?」
「夢であってほしかったですー本当に」
「そ、そうなの…我愛羅君も苦労するね…」
「カカシ上忍も苦労人じゃないですかー。あ、じゃああたしはこれで」
「ハイハイ…ん?なんで俺の話しになったの?」

後ろでぼんやり立ち尽くすカカシ上忍を置いて甘栗甘を目指すと、外の腰掛けに座っている笠を被った人物が目に入った。なんだかとても近付きにくいオーラを放っているんですけどー…と思っていると、ぱっと顔を上げたその人…風影様と目が合った。

「あ、風影様だったんですねー」
「…待っていた、マトイ」

真っ直ぐに見つめてくる視線にあははと笑みを返すと、途端にぐいっと腕を引かれて甘栗甘の暖簾を潜っていく。いやいやちょっと他になんも言わんのかーい、というツッコミを飲み込みつつ大人しく連れて行かれた席に座る(や、一応この人風影様っていう偉い人だからね)。

大体なんであたしのこと好きになったんだろーねこの人は…情報部、拷問部を行ったり来たりしてる特殊な女ですよーあたしは。‥なんてぼんやり考えつつ、店員が持って来てくれた熱いお茶をずずーっと啜りながら、ちらりちらりと風影様を見る。赤い髪に、額に「愛」、目に隈。つい最近までごく普通の人生ライフ(任務以外)を送ってたのに、あたしはどうしてこうなったんだ…と、ふおーっと息を吐いていると風影様がメニューを開いた。

「選べ」
「へ、ええ?」
「きな粉が好きだと聞いた。俺はお前が好きな物を共有したい」
「え…えっとー、誰にですかー?」
「火影がそう言っていた」

綱手サーーン!!至って真面目に答える風影様を前に、あたしの頭はあの若作り巨乳お祖母様のことでいっぱいになった。ていうかちゃっかり風影様のこと応援してるしー!何やっちゃってんのあの人!つーかなんであたしがきな粉好きなこと知ってんのー?!

「どうした」
「ひぃ、いえー、なんでもありませんよー」
「期間限定きな粉餅サンドがあるらしいが…」
「なにっ!それいいですねー!ぜーったい美味しいー!!」
「そうか。ではこれを2つ頼む」

は!何食べ物につられてんのあたし…!ついメニューに顔を近付けていたあたしは、店員さんに注文を取り付けた風影様の言葉で我に返り、ばばっとメニューから顔を離した。ああーもうほんとに調子狂うなあー…何考えてるかさーっぱり分かんないし…

「マトイ」
「へぁ、なんでしょーか風影様」
「我愛羅でいい」
「いやーさすがにそれはマズイですよー。一応あたしは下っ端の忍ですしー」
「ナルト達はそう呼ぶ。名前で呼んでほしい」
「しかしですねー風影様ー」
「我愛羅だ」
「うぐっ……が、我愛羅、様…」
「我愛羅」
「…勘弁してくださいよー…」

もーこの空気どうにかしてー、というか空気読めこの人も!なんて言うわけにもいかず、眉を八の字に下げた。その、我愛羅様もさっきからずっとぴしっと背筋伸ばしてるし、あたしはもっとダルダルしたいのにさ。これどんな過酷任務だよー辛い…

「…この間は、急で悪かったな」
「は!いやーそうほんとに…ってそうじゃなくてですねーいやー、あたしみたいな超ズボラ娘になんでという疑問の方が大きいっていうかーですねー…」
「俺のことは覚えているか?」
「いやいやー忍で貴方を知らない人の方が少な……え?覚えているか?」
「以前にマトイとは出会っている」
「……う、うっそだあー…!あたしが、風、じゃない…我愛羅様と?」
「そうだ」

やばい、全然覚えてない…。ヒヤリとした汗が背中を流れるのが分かる。あ、あたしなんかやらかしたっけー?!アタフタとしながらなんとか過去の記憶を引き出していると、ふと、砂隠れに単独任務に向かった時のことを思い出した。

2014.03.31

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