栗色の髪、赤い瞳

「思ったよりは荷物が多いですね」
「長い事入院していたからな」

木の葉病院を訪れた私達はネジが使っていた病室へ向かい、持ってきた紙袋の中に私物を纏めていた。長かった入院生活のおかげで服や下着も多く、そして同時にどれだけ完治に時間がかかったのかが伺えた。あの日。大きな穴が体に空いたネジを見たあの日。もう無理な大怪我だと思っても諦められなかったあの日。この時改めてネジを看てくれた綱手様や看護婦さん達に感謝した。

「…どうした?」
「…え?」
「泣きそうな顔してるぞ」
「え、や…無事でよかったって、改めて感じてしまって…それだけで、別になにも、ないですよ」
「…俺がここに戻ってこれたのは、周りの仲間と……お前のおかげだ、ハヤ」
「そんな…私はただずっと祈ってることしかできませんでした…」
「俺の為にずっと祈ってくれてたんだろう」
「それはもちろんですが…」
「……」

タオルを紙袋に詰めていたネジの手が止まった。それを見て私の手も自然と止まる。私の受け答え、何かまずかったでしょうか…?様子を伺いながらゆっくり荷物纏めを再開すると、ネジが小さく息を吸った音がした。

「…あの時は覚悟ができていた」
「…」
「ナルトを守ろうと飛び出したヒナタ様を見て、俺は2人を守ることを選んだ」
「…ネジ、」
「‥けど俺は戦争に出る前に1つだけ自分と約束をしていたことがある」
「約束…?」
「…必ず"生きて伝えに行く"と」
「…それ、って…」
「それに、やっと伝わったから今ハヤとこうしていれるんだろう」
「………え、あ……え?」
「だから死ぬ訳にはいかなくてな。根性で乗り切った」
「…っふ、根性って…まるでリーさんみたいですよ…」
「たまにはあいつの熱血も役に立つな」

そうハハ、と笑うネジを見て、私も思わず笑い声が漏れる。

「…え?では、ネジは一体いつから私の事が好きだったんですか?」
「…このタイミングで聞くか?」

ふとした疑問がついつい口から出ていたらしい。ばばっと慌てて口を両手で塞ぐと、呆れながらも若干耳を赤くしていたネジが額を押さえてうな垂れていた。んな、なんてことを質問しているんでしょうか私は!!急いで荷物を纏め終えると、「お手洗いにすみません!!」と一言、逃げるように病室を出た。

「俺ももう終わるから先にフロント行ってるぞ……って、聞こえてるか…?」








「いないですね」

落ち着きを取り戻して最後にネジに言われた通りにフロントに行ってみたが、そこにネジの姿はなかった。思ったことをすぐ口に出してしまうとはらしくないと小さく溜息を吐く。ネジはまだ病室でしょうか?きょろきょろとフロントを見回して誰か知っている人物がいないか確認してみたが、見知らぬ看護婦さんが数人の患者の応対をしているだけで見当たらない。自分で探しに行くかと諦めて歩き出すと、ふと先程のネジとの会話を思い出した。

「…あの時は覚悟ができていた」
「ナルトを守ろうと飛び出したヒナタ様を見て、俺は2人を守ることを選んだ」
「‥けど俺は戦争に出る前に1つだけ自分と約束をしていたことがある」
「‥必ず"生きて伝えに行く"と」
「伝わったから今ハヤとこうしていれるんだろう」

正直、ネジが私を好きだったとは思わなかった。いや、仲間として好かれてはいるだろう自覚はあったにしても、まさか私と同じ気持ちだったなんて。今更嬉しさがこみ上げてきて、窓ガラスに映る少しにやけた自分の顔。…俗にいうこれが「キモイ」というやつ‥。そしてその窓ガラスの先にいた男女2人を視界に入れて、ついピタリと足を止めた。

「……したんですが、自分の荷物が……」

そこには、探していたネジと、栗色の長い髪をした女性が大きめの花壇の上に座り込んでいた。ネジが女性の方といるのはあまり見ることがなくて、機会を伺いつつ早足で近付いていった。

「ネジ?…と…」

おずおずと控えめに声を掛けると、ネジと、その隣の女性が顔を上げた。整った顔立ち。だけどどこか感情の読めない瞳。…赤い、燃えるような赤。

「ハヤ、どうしたんだ?」
「フロントにいらっしゃらなかったので探しにきたのですよ。そちらの方は?」
「俺が小さい頃に1度だけ手合わせをしてもらった人なんだ。特上の翡翠ウミさん」
「ネジ君、私上忍になったんですよ」
「えっ、そうなんですか?」
「知らない方ですね。集まりでも見かけたことはありませんが…私は上忍の白魚ハヤと申します」
「よろしくお願いします」

軽く会釈しながら挨拶を交わすと、ネジへと視線を向ける。こんな方ネジの知り合いにいましたっけ?そう言いたげににこりと笑うと、「何を心配してるんだお前は」と、ポンと頭を撫でられた。

「長期任務についていたらしい。俺もウミさんに会ったのはあの1回きりだったしな」
「そうなんですか?」
「…嫉妬か?」
「というよりは女性の方といるのが珍しくて、つい…」

「聞きたくなったんです」、と言いかけた瞬間、座っていた翡翠ウミさんは突然立ち上がるとすごい速さでその場を離れていった。

2015.09.19

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