女子の嗜みなんて必要ないもの

「あの、服持ってきてもらってすごく助かったんですけどもっと他のはなかったでしょうか…」
「似合うと思って持ってきたんだから文句言わないの……あら、やっぱり似合ってるじゃない。ふふっ」

お墓に向かう為に着替えようと、紅先輩からもらった紙袋を開けた私が手に取ったのは、茶色のもこもこっとした暖かそうな上着に白のタートルネック、朱色の膝丈より少し短いプリーツスカートだった。ご丁寧に焦げ茶のショートブーツまで入っていて、それ以外に服は入っていなかったのでとりあえず着てはみたものの、私がスカートなんて着慣れているはずもない。着替えて紅先輩のいる居間に顔を出した所で落ち着かない、とスカートの裾を握りしめた。

「やっぱり貴女も女の子よねぇ。もっと持ってくればよかったわ」
「…嫌な予感しかしません」
「ついでに買い物もすればいいじゃない、私付き合ってあげるわよ」
「この格好で街に出るのは…」
「暗部装束で出れないでしょ。まさか…カカシのスウェットで出ようなんて考えてないわよね?」
「それも、さすがに…」
「だったらそれしかないわよ、観念しなさい」
「でも、その子が…」
「そうね、シカマルかいのにでも預けるわ。ちょっと寄り道していい?」

しかまる、いの。‥誰だろう。暫く考えていると、ああ、と紅先輩が薄く笑った。

「シカマルは奈良家の跡取り、いのは山中家の一人娘」
「そうなんですか」
「それと、この子の名前はミライだから」

寝ている赤ん坊、ミライちゃんを抱き上げながら優しく笑う紅先輩。辛くないんですか、と言いかけてやっぱりやめた。アスマ先輩の死を乗り越えようとしている、もちろん、ミライちゃんの為にも、自分のためにも。

紅先輩は、強いんですね。‥靴を履く後ろ姿を眺めながら、私は握りしめていたスカートの袖を一層強く握りしめた。








「イルカ先生ー、報告書ここに置いておきますネー」
「ああっ!カカシさん!どうもすみません!お疲れ様でした!!」

バタバタしているイルカ先生を視界に入れて、受付に今日の分の報告書を纏めた俺は、イルカ先生にはまた今度ウミが帰還した事を伝えることにするかとそのまま外に出た。どうやら今日はほとんどの忍が里の復興作業にあたっていたらしい。コテツやイズモまでが門番警備の傍らで手伝わされていた。

「さてと、帰りますか…」
「探した探した探したァーーー!!」

帰宅する方向に足を向け踏み出そうとした瞬間、後ろから物凄い大声を出す青年に動きを止めた。意外性No.1忍者、悪く言えば空気全く読めないNo.1忍者とも言うが、とにかくその青年 -- ナルトは何故だか凄く怒りながら俺に向かってきた。

「よ、ナルト」
「"よ"じゃねぇってばよ!カカシ先生、一体どーいうつもりだぁ?!」
「どーいうつもりってお前がどーいうつもりなわけ?俺今任務終わった所なんだけど」
「あ、カカシ先生今日任務だったのか…ってちげぇよ!」

なんなのよ一体。ナルトの興奮冷めやらぬ形相を落ち着かせながらハテナを浮かべる俺に、さらに何が気に入らないのかびしっと指を指した。

「カカシ先生の家に!カカシ先生の服を着たびっじんな女の人がいた!!」
「…あ、ウミのことね。何、俺の服着てたの?」
「しかもなんでちゃんと付き合ってねーんだってばよ!!弄んで可哀想だと思わねーのか!!先生がそんなひっでー奴だったなんて、俺、先生のこと見損なったぞ!!」
「はああ?」

俺は、ナルトに言われた意味不明な言葉を一つずつ頭の中で整理することにした。

俺の家にびっじんな女の人は恐らくウミのこと。俺の服を着ていたのは、多分装束を洗濯して着るものがなかったんだろう。ちゃんと付き合ってない?イヤイヤ、そもそもそんな関係ではない。弄んでいるのはナルトの勘違いも甚だしい所だろうし、結果、ナルトの妄想ということか‥つまり、めんどくさい‥。

「一緒に住んでんならちゃんと彼女にして俺に紹介しろってばよ!!」
「なんかドサクサに紛れて紹介しろって言ってるけどね、お前は。ったく、ほんとーに……っ」

ああ、もう…と、ふと前方に目をやった先、ニヤニヤと笑う紅と私服のウミが居た。恐らくあの私服は紅が持ってきたものだろう。白い肌に朱色のスカートがよく映えている。紅め、あんな格好させて外に出歩かせるなんて、‥でも…可愛い。ぼけっと見惚れていると、ナルトも何かに気付いて後ろを向いた。すると、「ねーちゃん!!」と叫んだかと思いきや俺の腕を掴み一気に駆け出して行く。そして俺の背中を押した。

「先生ほら!!」
「ほらって…お前ね…」
「…貴方はやはり人の話しを聞かない方のようですね」
「へ?」

恐らく先程から様子を見ていたのだろう、ウミはナルトの側に歩み寄ると、昨日からの状況を完結に説明した後に小さく溜息を吐いた。その横ではミライを抱いたままの紅がふ、と笑いを堪えている。

いっそのこと、付き合ってるとか言っちゃってみればよかったのに。‥どこか楽しそうに口パクでそう伝えてくる紅に勘弁してよ、と返す。そんな冗談で優越感に浸りたくはない。俺はちゃんとした関係になりたいんだからね。状況を飲み込んだらしいナルトはナルトで、なんだ、先生がそんな人じゃなくてよかったー等と言いながら苦笑いしている。…まあ俺だって大人だから、お前が知らないことも多々色々あるんだけど。

「なんだってばよー。そういうことなのか…あ、俺はうずまきナルト!よろしく!」
「…翡翠ウミです」

誤解も解けた所で挨拶を交わしている2人を見て、俺は終始ニヤつく紅から視線を外すと、スカート姿のウミに目を向けて左手でマスクの上から口を隠すしかなかった。

2014.02.12

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