告白

「…まだ俺が付け入る隙はあるってことっスね」
「シカマルさんのお気持ちには正直一生応えられる気がしません。それにシカマルさんにはシカマルさんを思ってくれてる人がいると先程のお話から考えられます。その方を思って差し上げるべきですよ」
「俺には俺の気持ちがある。俺はハヤさんが好きだ」
「…」
「思われているだろうがなんだろうが、俺の気持ちだって変わらねェ…っつっても、今すぐにハヤさんの気持ちが傾かねェってのも分かってる。…だから、少しでも俺のことを意識して欲しいと思って」
「…シカマルさん。貴方は日暮硯コトメさんのことを信じていると言っていましたね。それは本当に"恋"とは違うものですか?"愛"とは違うものですか?貴方達2人には他人が入り込めないような深い"絆"があるように見えます。私に対してシカマルさんが感じているものは"憧れ"に近いものではないのでしょうか?」
「違ッ…俺は本当にアンタに惹かれて」
「もう帰ります。遅くなるとヒアシ様に余計な心配をかけてしまいますので」








「…どうかしたのか?ハヤ」

数日の任務も終え、もう面会はできないだろうと思っていたが、ネジの担当看護婦である女性から承諾をもらった私は現在ネジの病室で椅子に座っていた。シカマルさんに告白されてから彼には会っていない。本当は分かっていた。シカマルさんが私に本気だったってことくらい、あの目を見れば…でも、ああでも言わないと彼はコトメさんにもまた、私と近い感情を持っているということに気付かないと思った。

「コトメも必死に努力してるっスよ。俺は…アイツは絶対伸びるって信じてます」

そう言った時の彼の目は私に思いを告げた時と同じような目をしていたから。…シカマルさんなら必ず気付く。そして、私が一生ネジに伝えられないことをまた口にする日が来るんだろう。

「ハヤ」
「え?」
「どうした?さっきから随分ぼんやりしているが…何かあったのか?」
「な、なんでもありませんよ」
「面会時間を過ぎてるのに看護婦に頼みこむなんてお前らしくない」
「そういう日だってあります」
「……ハヤ…?」

ベッドから上半身を起こしているネジの左手が私の頬に伸びる。ぼやりと滲むネジの顔が見えて気付いてしまった。‥私、どうして。

「なんで、泣いてるんだ、お前…」

頬につうっとした液体が流れていて、私が慌てて頬を拭った時にはもう遅く、ネジももちろん気付いていた。なんでシカマルさんは私に思いを告げることができるのに、私はネジに思い告げることもできないのか。どうして私は日向一族のネジを好きになってしまったのか。どうして私は無謀な恋をしてしまったのか。シカマルさんが酷く羨ましく感じてしまったのだ。

ネジが好きで、好き過ぎて辛いと思った。日向宗家では今だ冷たい視線が多く寄せられる。どう足掻いてもネジと共に手を取り合って歩くことはできない…そう言われてるみたいで、もっと苦しくて。

「…泣くな」

それなのにネジが私に向ける視線も掌も全部全部心地良くて。されるがままにぐいっと手を引かれた瞬間、視界が白い服に遮られた。

「…お前が泣いているのを見るのはだいぶ久しぶりだ。何があった?」
「なんでもありません、離してください…!」
「できない」
「できないって…」
「好きな女が泣いているのを見て何もしないではいられないだろうが」
「何言っ…………て…」
「…お前が突然泣くのが悪いんだぞ」

待って…誰が、誰を?ぴたりと動きを止めた私の頭上で溜息を吐く音が聞こえた。恐る恐る顔を上げると空いている左手で顔を隠したネジの姿が、私の潤んでいる目に飛び込んできた。

「日向の……日向一族の天才である貴方が一体、何を言ってるか…分かっているんですか…?」
「何故日向の名が関係あるんだ。俺は1人の男として、お前が好きだと」
「やめてください!!!」

そんなに簡単に言わないでください!願っても、どうせ何も変わりはしないのに!

「ハヤ!?」

どん、とネジの胸を押し返すとそのまま制止の声も聞かずに部屋を飛び出した。

2014.05.14

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