想い、想われ、想う

一頻り鯖の味噌煮定食を食べ終えた私とシカマルさんは、母親の話しから当たり障りのない話しに話題を変え、軽く雑談を終えたところで席を立つ。財布を出そうと腰にある小さなポーチを探っていると、もう店を出ようとしているシカマルさんの姿が視界に映り慌てて引き止めた。

「お金をまだ払ってません、」
「あ?んなもんいーっス。俺がさっき婆さんに払っといたんで」
「え?」

そうさらりと言いのけて店を出たシカマルさんにいつ払ったんですかと問いかけようとするも、後ろにいたお婆さんがこちらを見てにこやかに手を振るその手にはしっかりとお金が握られていて、とりあえずお礼を言いつつその場から離れるとシカマルさんの後を追いかけた。

「あの、お金!」
「気にしなくていーっスから。それよりハヤさん、もうちょっと時間あります?」
「…何故ですか?」
「ネジのことで、聞きたいことがあるんスけど」








「ネジのことで、聞きたいことがあるんスけど」

そう言われてから口を開かなくなったシカマルさんが向かった先は人気のなくなった演習場の近くだった。

ネジのことで聞きたいこと、ですか…。ポケットに両手を突っ込んで、ぼんやり空を見ながら私の隣を歩く彼はどこか考え込むように足を動かし続けている。とりあえず何か話さなければと、この沈黙に耐えきれなくなった私は口を開いた。

「…シカマルさんがわざわざごはん奢ってくださるなんて思ってませんでした」
「飯誘ったのは俺っスよ。それに女に金払わせるわけにはいかねェし」
「美味しかったです。シカマルさんの言っていた鯖の味噌煮定食」
「ハハ、そりゃよかったっス」

くるりと首をこちらに向けて照れを隠し切れていない顔が見えた。少し落ち着きのない手の動き、少しだけ朱に染まった耳。それが何を意味しているかなんて私も分からない程馬鹿ではない。何度も遭遇したことのあるこの感覚…自惚れているわけではないが、シカマルさんも私に好意を持っているんだと今更理解してしまった。…彼は、そういうことに興味がない方だと思っていたのに。

先程したコトメさんの話しでもこの人は彼女というものを作らない人だと思っていたので尚更だ。シカマルさんの真意に気付いた所で、ご飯に誘ってくれたことも納得がいった。そこから予想を立てていけば、ネジのことで聞きたいことという内容もはっきりしてくる。恐らくシカマルさんは、ネジと私の関係がどうなのかを知りたいということだろう。

「…で、ネジのことで聞きたいことって言うのはなんでしょうか?」
「ああ……いやそんな堅っ苦しい話じゃねェから適当に答えてくれりゃいいんスけど…ハヤさんとネジってすげー仲良いじゃないっスか。だから……なんだ、その…付き合ってんのかなーと思って…」

シカマルさんの言葉を聞きながらぼんやりとネジの顔を思い浮かべる。‥ネジが私のことをどう思っているか分かりません…悪いより良い方だとは思います。けどそれは、ヒナちゃんと同じように親愛と言う名の感情が込められているだけで…恋や愛とは違ったモノ…私が持つ感情とは少し違う気がします…それに…。視線をずらすシカマルさんの目を捉えて微笑んだ私は、そんな想いを仕舞い込むように息を軽く吸い込んだ。

「そういう風に見えますか?」
「…まァ、少なくとも俺にはそう見えますね」
「そうですか…どうしてそのようなことをお聞きになりたいんですか?」
「…‥全部聞かなくても、アンタには分かるでしょう」
「さあ?」
「…気になるからですよ。ハヤさんのことが」

気になる、ですか…。単刀直入に告げてこないその言葉に違和感を覚えるも、目の前の彼は酷く真剣な眼差しを私に向けていた。その瞬間にばっさりと断るつもりだった私の口も閉じてしまう。今までも私の外見だけで寄ってくる数々の男性はたくさんいた。でもその中でシカマルさんは、特異稀な人の部類だ。

「好きだとは仰らないのですね」
「無謀な恋はしたくねェんですよ。アンタがネジと付き合ってンなら俺は"気になってる"だけで諦めもつく」
「策士さんは本当に変わった思考回路をされています」
「でも…」
「でも?」
「付き合ってねェんだったら話しは別」

呆れるくらい頭の良い人だと改めて感じる。私に断る術を与えないような話しの進め方に、観念してふうと溜息を吐いた。

「…でしたら私もちゃんと伝えておきます。ネジとは…お付き合いしておりません………けど」
「…」
「私は……ネジのことを特別な男性だとお慕いしております」

その瞬間、誰かが近くにいたのかチャクラの気配を感じてそこに目線を寄せる。しかしその先にはもう、人の姿は消え去っていた。

2014.04.17

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