友と仲間とコイゴコロ

「はいこちら鯖の味噌煮定食2つね。シカマル君、今日はいつもの彼女と一緒じゃないのかい?いいねえ、若いねえ。本命はこちらのお嬢さんかね?」
「いや、そん「シカマルさんは私の1つ下の後輩なんです。シカマルさんとはそんな関係ではありませんよ」…」
「そうなのかい?」

くそ、めんどくせー…余計なこと言うなよな。ハヤさんの素早い対応に溜息を吐くと、"いつもの彼女"というワードに俺は首を傾げた。

「シカマルさん、彼女がいらっしゃったんですね」
「‥あの人の勘違いしてんですよ」
「勘違い?」
「深い意味はなくここに来てるってこと」

いつものって、完全にアイツしかいねえじゃねーか。俺が女と一緒にここ来ることなんて無いに等しいし、まあここによく来る理由はほとんど俺がチョウジに飯に誘われているからなんだがよ…。こうやってハヤさんをわざわざ飯に誘ったのは他でもない、俺はハヤさんに惹かれていることを自覚しているからだ。ついでに俺の好物を一緒に食べてもらおうという魂胆付きで。幼馴染と変わりのない"いつもの彼女"と呼ばれたコトメに好意を寄せられていることは俺だって気付いてる。アイツ分かり易すぎんだよ。…それを分かっててもコトメは俺の中で大事な仲間で、幼馴染だっつー認識しかない。コトメの気持ちに応えてやることは…できねぇ。

ハヤさん…白魚ハヤ上忍は俺の考えをいつだって正確に読み取ってくれる数少ない忍の1人で、厳しい面が多い人だが笑うとすげー可愛い人だ。その笑みを俺の前で見せてくれたことは一度もないが、ヒナタの前で話す時とネジの前で話す時は信じられないくらい自然に笑う。昔見た、偶々通り掛かった場所にいたネジとの会話の中でハヤさんの弾けた笑顔が今でも忘れられない。俺の前では作り笑顔で(作り笑顔でも充分可愛いと思っちまうが)、ネジの前では自然な笑顔…その笑顔を俺の物にしたいと、いつからか思っていた。一瞬にしてネジに嫉妬しちまったんだ。…つーかこうもはっきり言われると凹むよな…間違ってないのが余計…。

じとっとした目で2人を視界に入れていると、適当に店員の婆さんと話し終えたハヤさんが頭にクエスチョンマークを幾つも浮かべて、俺に割り箸を差し出した。

「どうかされました?」
「…なんでも」
「好物が目の前にあるのに眉間に皺が寄ってますよ」
「誰のせいだっつーの」
「あら、私のせいですか?」
「めんどくせー…」

ふふっと浮かべた笑顔はやっぱりいつもと変わらない作り笑顔。まあでも、食事に応じてくれただけでも他の奴より一歩抜きん出てるってことだよなと思い直して、パキンと割り箸を割ると白米に手をつけた。

「美味しい。このお味噌白味噌ですよね?優しい香り…」
「へえ、よく分かりましたね」
「白味噌は…私の母がよく、時間をかけて手作りをしていたそうで…」
「そうなんスか?…あ…悪ィ、俺…」
「なんでしょう?」
「いや…なんでも…なんかよくねーことでも思い出させちまったみたいっスから…」
「…私の事情を知っている、ということですか?」
「…一応次期火影の補佐役なんで…少しは」

少しだけ目を見開いて一瞬だけ悲しそうに視線を落としたハヤさんは、鯖の味噌煮を飲み込みながら溜息を吐いた。

「どこまでご存知ですか?」
「…元々木の葉の里の住人じゃない。どこかまでは知らねえけど…そんで日向宗家に住んでいる一族以外の唯一の人物。その右眼は……日向の呪印…俺が知ってんのはそのくらいです」
「…」
「ハヤさんの母親って一体どんな人だったんすか?」
「……覚えていません。私は産まれてすぐに木の葉へ連れられてきたそうなので…ですが、母が料理好きだったことはホウライ様から伺っていましたし、手作りの香りも私の鼻がよく覚えているようです」
「白味噌が?」

ハヤさんの酷く揺れる瞳には、目の前にある鯖味噌だけが映っていた。

2014.04.15

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