相違

「こじんまりした定食屋さんですね」
「ここ、チョウジと時々食べに来るんスよ。オヤジさんが漁師で魚主体の店なんスけど美味いっスよ」
「お味噌のいい匂いがします」
「分かってんなァ」

シカマルさんに連れてこられた場所。そこは商店街の奥にある細道のさらに奥で、知らないと足を踏み入れないだろう所にあった民家のような定食屋だった。ニッと笑みを携えながら肘を机につくシカマルさんを目の前に、店員のお婆さんから受け取ったお茶を啜った。

「…なんで嬉しそうなんですか?」
「いや、絶対断られると思ってたんで」
「任務が2つあってもこの時間に終わったのはシカマルさんがパートナーだったからこそだと思います。それにたまには人と食事をするのも悪くないですし」
「こないだヒナタとお茶してたじゃないっスか」
「ヒナちゃんとは毎日でもお茶したいんです」

コトンと湯呑みを置くと、相変わらずだなというように溜息を吐いたシカマルさんが視界に映る。そもそもヒナちゃんと他の方を比べないでほしいですね、別格なんですから。店頭には「当店白身魚のフライと刺身定食が人気!」と書かれた黒板があったが、目の前に広げられたメニュー表に視線を移すと焼き魚、煮魚、刺身の数々に紛れるように鰯カレーや鯛飯の文字がある。‥鰯カレー。聞きなれない文字を頭で復唱している所にぬっと目の前にシカマルさんの手が遮った。

「冒険したい人でした?」
「あ…いえ、あまりにも奇抜なメニューだと思ってつい見てしまって…」
「ならよかった。ハヤさんには他に食べてほしいメニューあるんスよ」
「他に?」

遮っていた手で指を伸ばすと、とある1点の写真で止まる。写真からでも良い匂いの漂ってきそうなそれは白米とお味噌汁、胡瓜の漬物、鯖の味噌煮。実に無難な食事ではあるが、何故これなんでしょうか?首を傾げながらシカマルさんを見ると、頭を掻きながら目線をそらしたシカマルさんがいた。

「鯖の味噌煮…ですか?」
「…嫌いじゃないですよね?」
「嫌いではありませんが…ここの人気は白身魚のフライと刺身定食と書いてありましたよ」
「人気だけが全てじゃないっすよ」
「それは…そうなんですけど……そこまで言うなら鯖の味噌煮をいただきます」

そう言うが早く店員のお婆さんに鯖の味噌煮を2つ頼んだシカマルさん。木の葉の里で難関任務をあっさりこなしていく、面倒くさいが口癖の彼がそこまで鯖の味噌煮を推す理由は?よく分からなかったが、そこまでこれが食べたいという欲求もなかった私は素直に承諾した。

「好きなんですか?」
「ぐっ!?」
「鯖の味噌煮」
「あ、ああ、そっちな…まあ…そんなとこです」
「らしいと言えばらしいですね」
「…爺くせえって言いたいなら言っていいっすよ」
「自覚があるなら言いませんよ」
「…めんどくせー」

決まり文句が出た所でふふっと笑みを零す。そういえば彼には山中いのさんや秋道チョウジさんの他に、もう1人幼馴染がいるということを思い出して、空色髪の彼女を思い浮かべた。日暮硯コトメさん。今でこそあまり一緒にいる所は見かけないが、昔はよく話していたのを見たことがあった。

「この間、日暮硯コトメさんと任務が一緒でした」
「あ?コトメか…そういやそんなこと言ってたな…」
「彼女、昔の私に少し似ていますね」
「は?どこがっスか?」
「腕っ節が弱い所が、です」
「ハヤさんが腕っ節弱い…?冗談はよしてください」
「本当ですよ」
「腕っ節が弱かったら上忍なんて務まんねェと思うんすけど‥」
「死ぬ程努力しましたから」
「…」
「だからコトメさんを見ていると、歯がゆくてしょうがなくて」
「コトメも必死に努力してるっスよ。俺は…アイツは絶対伸びるって信じてます」
「私は実力主義ですので他人に甘い事はいいません」
「分かってます、ハヤさんの性格ならそう言うだろうってことくらい。でもコトメは絶対俺達に追いついてきますから」

ニヤリと含み笑いを見せたシカマルさんに私も笑みを見せた。彼女の何がそう思わせてしまうのか分からないが、彼がそう言うならと肩にかかった無造作な黒髪をさらりと払いのけた。

2014.04.14

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