誰だっけ、黄色い髪の毛

ばさばさと風に揺れるシーツを見ながら、私はカカシ先輩のベランダから下を見下ろしていた。故郷がこんなになったというのに、里の人は本当に力強い。‥ぼんやりとそう考えていると、ドア越しからチャイムが聞こえてきた。私が出たら変だからと思って無視していたが、それは1回だけにとどまらず、ピンポンピンポンピンポーン!とけたたましく鳴り響いた。空気読め、なんてイラっとしながらも観念して玄関先に向かう。

「こらーッ!何回も鳴らし、て」
「…」

ドアを開けた瞬間に声を上げた青年は、昨日私がクナイを突きつけた黄色い髪の青年だった。確かカカシ先輩の教え子のナル…とかなんとか…その教え子が先輩のいない家に一体なんの用なのか、そう話そうとしたが青年は私の声を遮った。

「…ねーちゃん誰!!?」
「そうなりますよね」

シーツを洗濯する時に一緒に暗部装束も洗っていたため、現在私は素顔のままカカシ先輩のスウェットを勝手に着用していた。あの人は私の家に勝手に出入りしていたからこれくらいいいだろう、という自分の見解だ。そして目の前にいる彼は、まさか私が昨日のクナイ暗部だとは気付いていないので、完全に初対面だと思っている。当たり前だ。それにバレたらなんか色んな意味で面倒臭い。

「い、いつから一緒に住んでんの!?」
「昨日からですね」
「げえ‥カカシ先生付き合ってるなんてひとっことも言ってなかったのに…」
「いや付き合ってるわけではないですが…」
「付き合ってねぇの!!?なんで?!だってそれカカシ先生の服だろ!!?」
「ああ、これは私が」
「カカシ先生ひでぇよ!女の人弄んで信じらんねぇ!俺がガツンと言ってやるってばよ!!」

全く人の話しも聞いちゃいない。そのまま止める間もなく駆けて行ってしまった青年に溜息を吐くと、そういえばあの人カカシ先輩に会いにここにきたんじゃなかったっけ、と思ったが、まあいいかと玄関を閉めた。昨日も思ったが、カカシ先輩の教え子にしては随分元気がいい。やっぱりなんか、誰かに似てる気がする‥とは思ったものの、乾燥機に入れていた装束の脱水が終わった音がしたことで考えるのをやめた。








「あんたがこんな所で任務なんて里が平和な証拠よね」
「紅」

崩壊した家の片付けを手伝っている(任務の)最中に、後ろから声が聞こえてきた。そこにいたのは小さい子供を抱えた紅。彼女は育児の為に忍を一時休業中で、木材を肩に積んでいる最中の俺を見て軽く笑っている。

「ま、こんだけの状況だから駆り出されてもおかしくないでしょ。それより紅こそ散歩中?ミライと」
「寝ちゃったけどね」

すやすやと寝息を立てている女の子は、猿飛の名を背負っていた彼によく似ているが、決して髭が生えているわけではない。優しく頭を撫でながら微笑む紅は、もう立派な母親の顔をしていた。

「昨日ウミが帰ってきたよ」
「…え?!ウミってあのウミ!?」
「ボロボロだったけどね…無事に帰ってきた」
「ちょっとなんで教えにきてくれなかったのよ!今どこにいるの?」
「俺の家」
「はっ‥なんでカカシの家?」
「ウミの家戦争で大破してたのよ。で、綱手様に命令されてね」
「ふうん‥じゃあ今からあんたの家に行けば居るのね?」
「そういうコト。休暇中暇だと思うから」

まだウミが下忍の頃、女の子である彼女に教えてやれないことも多かった俺は、その辺を紅に任せていた。最初は中々懐いてくれなかったようでよく可愛くないと嘆いていたが、付き合いを重ねるにつれて仲良くなり、いつの間にか可愛い妹のようだと口にしたのを聞いたた時は、嬉しかったと同時にどこか羨ましかった。

「ふふ。カカシ、変わんないわね」
「へ?」
「ウミの事になると異常に過保護。それはカカシのお願いでしょ?行ってやってくれっていう。あの子には本当に優しいのねぇ」
「…何が言いたいのよ」
「別に?じゃあ、ウミ借りるわねー」

くすくすと笑いながらその場を後にした紅に綱手様のニヤニヤが被る。少し心配になってきた俺は、今日の分の任務をさっさと終わらせようと残りの木材を持ち上げた。

2014.02.10

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