似た者同士でも一方通行

「シカマルさん、あの1番上にある本ってそうじゃないでしょうか?」
「暗号調合書マニュアル…間違いない」
「あれで最後の1冊…脚立お借りします」
「いいですって。俺がやります、女にやらせるわけにはいかねーし」
「…女を馬鹿にしてます?」
「危ないっつってんすよ」

そう言うなり手に取っていた脚立を私からさらっと奪い取ったシカマルさんは、お目当ての棚の前に脚立を立てた。ギシギシと音を鳴らしてすんなりと本を手にしたシカマルさんを見ながら思う。彼はなんでこんなに男、女と拘るのだろうか。そういえば彼の父親である奈良シカクさんもそうだった気がする。子は親に似る、ということですね。

だいぶ昔に綱手さんからのお使いで奈良家へ行ったことがあるが、その時に初めてシカクさんにお会いした。

「ほおォ、こりゃまた随分可愛いお客さんだなァ?ウチの息子に用かい?」
「?…いいえ。5代目綱手様からの命でお使いに参りました。白魚ハヤと申します」
「白魚…いやァ礼儀正しいなァ、うちの馬鹿息子にも見習ってほしいねェ…。さ、上がってくれよ」
「あ…結構です、シカクさんという方に手紙を渡しに来ただけですので」
「なぁに?お客さん?…あら…」
「すみません、お邪魔しております」
「…やだわ、シカマルったらこんなに可愛い子と知り合いなの?コトメちゃんもいるのに贅沢な子ね」
「あの野郎も隅に置けねェなーさすが俺の息子だ。ハハッ」
「あの…シカクさんに手紙…」
「まァいいからよ、女の子を迎え入れてすぐ帰すのは男が廃るってモンだ。茶でも飲んでいくといいさ。あ、ちなみにシカクってのは俺のことな」

本当に瓜2つですよね。シカクさんとシカマルさん。ぼんやり上を見上げながら昔のことを思い出していると、お目当ての本を手に取ったシカマルさんが私を見下ろしていた。はっと我に返って手を伸ばしそれを受け取る。ぽんっと机に乗せると、幾らか綺麗になった書物庫を見て満足気に笑みを零した。

「これで当分は本を探すのも楽になりますね」
「ああ。それに、日が落ちる前には今日の任務も終わりそうだし…」
「シカマルさんって凄いですね。私がこうやって片付けたらいいんじゃないかって考えていたことをまさにそのままやってしまうなんて…頭の中を読まれているみたいでしたよ」
「俺は効率がいいと思ってやってるだけっスよ。ハヤさんこそ俺が何も言わなくても俺の考えてたように片付けてくれるから楽だったし」

積まれた本に手を置きながら頬を緩ませて笑うシカマルさんを見ながら私も軽く笑った。ネジもそうだけど、シカマルさんも同じ。彼等は私の考えをよく分かっているような気がするくらい、昔から波長が合っていた。

「ま、つーわけで運びますか。1回じゃ無理だと思うんで、2回に分けて」
「そうですね」
「あー、ハヤさんはこっち。そっちの重そうなのは俺が持ちますから」
「気にしなくても大丈夫ですけど」
「いいから」

そのまま分厚い本がまとめてある方に手を伸ばして抱えたシカマルさんは、ひょいっと持ち上げて扉へと歩きだした。きちんと分けられている薄い本と厚い本。シカマルさん、最初からそのつもりだったんですね、と呆れたように笑みを零した私も本を抱えこんだ。








「ご苦労だったな。2人共下がっていいぞ」

無事に2往復を終えて本を火影室に運びこんだ私とシカマルさんは、綱手さんに軽い労りの声をかけられてすぐに火影邸を後にしていた。簡単な任務ではあったが面倒な任務だった。疲れた体を軽く伸ばしていると、隣を歩いていたシカマルさんがぴたりと動きを止めた。

「帰らないのですか?」
「…ハヤさん。飯でも行きません?」
「え?」

左手をポケットに突っ込み、右手で頭を掻くシカマルさんが私と右斜め上に目線を揺らしている。シカマルさんがそんなこというなんて珍しいことだった。食事に誘われてもばっさり断るという私の噂は割と有名なのは知っているはずだ。なのに何故?と首を傾げた。

「いやなんつーか…珍しく任務も早く終わったし、美味しい定食屋知ってんですよ、俺」

あ、でも、無理にじゃねーんで。最後に付け足すシカマルさんに笑った。シカマルさんに対して下心は全くないが、正直分かり合えてはいる数少ない人物だと思う。たまにはいいかと首を縦に振ると、驚いて目を見開いたシカマルさんの顔が視界に映った。

2014.04.12

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