手にしたのは欠片の1部

シカマルさんと訪れた書物庫という場所は聞いた話と全く同じ荒れようで絶句した。こんな所を本当に探すんですか?ふざけてますか?なんて文句を言っている暇はない。何故かというと、文句を言っている間に時間は過ぎていくからだ。

机に置いてある書類だかなんだか分からない紙切れや本を適当に1つにまとめ終わると、棚へと視線を向ける。もちろん棚も荒れ放題で、大きさの違う本が乱雑に飛び出ており、1つ1つを抜き取りながら私は溜息を吐いた。

「あの、ここは掃除してないんですか?見た所大事な本や書類もあるみたいですけど…」
「結構前にサクラが死にそうな顔で懸命に掃除してたと思うんすけどね…」

サクラ…春野サクラさんか。綱手さんにも一目置かれる程の医療忍者で超怪力な女の子。そういえば彼女は綱手さんの弟子でしたっけ…。掃除してもきっとすぐ汚くさせるんだろう(主に綱手さんが)と考えつつ、サクラさんに同情してしまった。にしても、どうやったらこんなに汚くできるんだろうか。読んだら戻せばいい、それだけなのに…先程綱手さんからもらった紙を見ながらお目当ての本を探しつつジャンルごとに分けていると、可愛い絵に変な見出しがつけられた本を見つけて首を傾げた。

「どーしたんスか?」
「いえ…こんな所に絵本があったもので気になって」
「絵本?」
「知ってます?"おとこのことおんなのこ"という題名なんですけど」
「いや…全然知らねーなぁ…なんつーかめちゃくちゃ子供向けな感じっスね」
「どうしてこんな所にあるんでしょうか?」
「さァ…子連れが書物庫にくるわけねーし…それより早く終わらせましょうよ」
「‥読んでみても?」
「あのな……はァ、別にいいっスけど…」

シカマルさんの了承を得て改めて表紙に目を向けた。落書きのような人の絵が描かれ"おとこのことおんなのこ"という題名が大きく見出しになっているその絵本。ページを1枚めくると、黒に塗りつぶされた中にぽつんと月が描かれていた。

あるむらにすむほとんどのひとたちは、みんなおんなのこでした。そのなかでうまれてくるおとこのこは、みんなからかわいがられていました。そのむらのおとこのこたちはむらいがいのおんなのことけっこんすることができましたが、おんなのこたちはむらのなかのおとこのことしかけっこんすることができませんでした。それがむらの"きまり"だったのです。

ですが、そのむらのひとではないひとにこいをしたおんなのこがいました。

とてもすてきなひとで、そのむらのひとではないおとこのこも、おんなのこにこいをしました。しかし、それをむらのひとたちがゆるしてくれるわけがありません。

そこでふたりはかくれてあいにいくようになって、いろんなはなしをしました。ほんとうにだいすきだったのです。いっしょにいたかったのです。

あるひ、おんなのこにあかちゃんができました。そのこはだいすきなおとこのことのあかちゃんだったのです。

おんなのこはよろこびました。
おとこのこもよろこびました。

けれど、むらのひとはだれひとりとしてよろこんでくれず、むらからでていけとひどいことばをかけられ、たたかれたりけられたりしたのです。おんなのこはだいすきなおとこのことのあかちゃんをまもるために、みんながねむるじかんをねらってむらからでていくことにしました。もちろん、これからはずっとだいすきなおとこのこといっしょです。

「なんだか随分意味深なお話ですね」
「子供向けっぽい本の表紙にしては、内容は大人向けだな」
「この物語の2人は自分の産まれた土地を捨てて、‥それでも幸せだったんでしょうね」
「どうなんスかね…苦労はしたんじゃないすか?」
「苦労してでも一緒に居たかったんでしょう?でしたら…きっと幸せですよ」

最後のページに描かれた2人の人の絵を見ながらパタンと絵本を閉じると、最後に記されていた"百合の模様"に気に留めることもなく、棚の1番端に寄せた。

2014.04.10

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