お付きの虎は口が良いようで悪い

「…ハヤさんの口寄せっスか?」
「はい、ホウライ様です。私達一族が昔から頼りにさせていただいている虎さんです」
「ハヤ殿、こちらのちょんまげ男は?」
「オイ」

ずびしっと裏手ツッコミを入れたシカマルさんは、心底心外だと言うように口をへの字に曲げ眉を寄せた。ちょんまげ…ではないのだがなんとも分かりやすい表現方法である。私はくすくすと笑うと黒い虎を一瞬で仕留めたホウライ様の頭を撫でた。相変わらずの気持ちいい毛並みをしている。

「この方は奈良シカマルさんです。奈良一族の」
「知らない方ですね。それにしても随分気味の悪い場所にいらっしゃいますが…何故キノコ狩り等されているんですか?この男に強制させられているなら今すぐこの爪で八つ裂きにしますけれども」
「火影さんからの任務ですから安心してください」
「それならいいのですが……そこのちょんまげ、貴様ハヤ殿に手を出したらズタズタに切り裂いてボロ雑巾にしますからね」
「いやマジで勘弁してください……」

キッとシカマルさんを睨んだホウライ様は息絶えた虎をずるずると口で持ち上げると、遠くへ放り投げてぺろぺろと血のついた爪を綺麗に舐めている。私が言えることではないかもしれないが少々恐ろしい図だ。

「にしてもだいぶ集まりましたね。50はあるのではないですか?」

「そうっすね…ちょっと数えてみますか」
「ホウライ様すみません、キノコを数える間にもし敵意のある動物が現れたら追い返してもらっていいでしょうか?」
「お任せください」

周りの警戒をホウライ様に任せて岩の上に座り込む、とバラバラとカゴを裏返してキノコを出した。大きいのから小さいのまであるキノコを20cm程のカゴに入れながら数えていくと、私のカゴには30、シカマルさんのカゴには36のキノコが入っていた。つまり、任務完了だ。

「バッチリっスね。ナルトと一緒だったらもっと時間かかってたぜ…」
「丁度3時間ですか…ホウライ様、もう大丈夫です。ありがとうございました」
「いえ。あの虎は持ち帰ってもよろしいですか?」
「お好きにしてくださって構いませんよ」
「それならお言葉に甘えて」
「え"っ…」
「術、解きますね」
「帰り道はよろしいのですか?」
「大丈夫ですよ。今度は久しぶりに修行にでも付き合ってくださいね」
「いつでもお待ちしております」

ぼん!という音と共にその場から姿を消したホウライ様を見送ると、さて木の葉に帰ろうと歩き出す。少し遅れてシカマルさんが早足でかけてくる音が聞こえて振り向いた。

「虎が虎をどうするつもりなんすか、まさかとは思いますけど…」
「ホウライ様は共食いしますからね。仲間は食べませんがその他は捕食対象なんですよ」
「あ、やっぱりそーなんスか…」
「それにしてもちょんまげ男だなんてそんな表現の仕方があるなんて思いませんでした…ふふ、」
「…ちょんまげじゃねーっスよ」
「わかってますよ、ふふ」
「…そんじゃまあ、火影室に戻りますか」

私の顔をちらりと見てすぐに背けたシカマルさんはその言葉と同時に木に飛び移る。私も後を追いかけ、キノコを落とさないようにカゴを抱えながら森を駆けていく。その途中に気持ち悪い虫の集団や大きな生物が行く手を阻んだが、クナイや手裏剣、"細針"で撃退していった。

「ホウライ様って言いましたっけ?このアオハンキノコは食べない虎なんスか?たくさんあるから一つくらいあげても大丈夫だったんスけど…」
「山の幸や海の幸は己が食べるような物ではないと言っていました」
「あ、そ……」








「早かったな2人共!それにこんなにたくさんのアオハンキノコ…いやあ助かるねぇ」

無事に何事もなく木の葉の里に到着し、火影室に顔を出した私とシカマルさん(とキノコのカゴ)を視界に入れた綱手さんは、待ってましたとばかりに口元に笑みを浮かべると時計を盗み見てさらに笑みを深くしていた。あ…すごく嫌な予感しますとシカマルさんに目線を寄越すと、面倒くさそうに頭を掻く姿が映って苦笑いを零す。この人は本当に仕事を溜める天才だな、その才能を貯金にも使えばいいのにと考えていると準備していたのかほれ、と1枚の紙を手渡された。

「…これは?」
「次の任務だ。シカマル、ナルトと一緒だったらもっと時間かかってただろ?だからその短縮した時間分もう1つ仕事してもらう。もちろんハヤもだぞ」
「めんどくせー…」
「次は内勤だから文句を言うな。そこにいくつか本の名前が書いてあるだろ?その本を見つけてここに持ってきてくれ。場所は書物庫だからな、頼んだぞ」
「‥って!書物庫って今めちゃくちゃ探すの大変じゃないっスか!」
「だから頼んでるんだよ。それが終わったら上がりにしてやるからとっとと行け」

シッシと手のひらを返す綱手さんに頭を下げ、気ダルそうな声を出したシカマルさんの服を引っ張り早く終わらせましょうと一声かけると、諦めたように天井を見上げたシカマルさんはくそめんどくせーとかなんとか言いながら、にこやかな綱手さんのいる火影室の扉を閉めた。

「あの人は本当に人使い荒いよな…」
「書物庫ってそんなに本の量多いんですか?」
「そりゃ図書館よりは少ないけど…惨事っスよ。どこにどんな資料の載ってる本があるかわかんねーし、出したら出しっぱで開きっぱなし。床に落ちてるとか珍しくねーし、机の上で雪崩も起きてる。5代目片付け下手なんスよ…」
「…容易に想像できますね」

なんとなく現状を理解した私は綱手さんに渡された紙に目を通すと、明らかに1回では運べないだろう量の数にげんなりした。

2014.04.07

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