キノコ狩り任務。

「ここはいつ来ても本当に好きになれない場所ですね」
「全く同感だぜ……うお!」
「すみません、気配を消した大きな猪がいたものですから」
「…なんか一言声かけてくださいよ…」

チャクラを指先に凝縮させ、ピンッと弓無しで弾いて飛ばさせる"細針"という術を発動させた私は、シカマルさんの隣にまで迫っていた大きな猪の両眼に命中させた。フゴ!と一声鳴いた後にどしゃりと地面に倒れた猪を視界に入れたシカマルさんは慌ててその場を離れると、呆れたように私の顔を見て口を引きつらせていた。

「猪が気配を消せるようになるなんてどんな訓練してるんでしょうね」
「ここは色んな生き物の無法地帯っスから、自然と身についたんじゃないスか?」
「ふふ、本来なら修行をして身につける物ですのに羨ましいですわ」
「何が羨ましいかわかんねーし…」

両眼に刺さった"細針"をエグい物を見るかのように目を細めるシカマルさん。"細針"は名前の通り極細の針なので目には見えにくく、殺傷能力は低い…のだが、いかんせん猪の眼からは鮮血が流れているし猪はぴくりとも動かない。眼を刺されたことによってショック死でもしたのだろう。猪から目線を逸らしふと地面から生える木に視線を落とすと、食欲は絶対に湧かないだろう色のキノコが目に映る。しかしそれは、先程シカマルさんから聞かされたキノコの特徴とよく似た物だった。

「シカマルさん、猪の向かってきた場所の木の下を見てください」
「あ?真っ白に青の斑点…探してたキノコだな」
「…美味しそうだとは思えませんけど本当にこれが動物達の食料なんですか?」
「ああ。まあ美味しい物ではないんスけど…なんつーか、"アオハンキノコ"ってのは要は精力剤みたいなモンっつーか…」
「…精力剤ですか」
「い、いや、他にも効果はあるけどそれが有名で…」

焦りながらもぶちりと今回の目当てである"アオハンキノコ"をもぎ取ったシカマルさんは、カゴにそれを投げ入れると立ち上がって探索の続きを始めた。別にそんなに困った顔しなくても…まあでも、本当に男の人は大変ですね色々と…。眉尻を下げつつ私も探索を開始する。が、先々に出てくるわ出てくるわ猪、大蛇、虎、熊、変な虫…(ちなみに虫は速攻撃破しました)。そして出てきた先には必ずと言っていいほど"アオハンキノコ"があった。あんな毒々しいキノコが動物達は本当に好きらしい。着々とカゴの中に詰めていけば、いつの間にか中はパンパンになっていった。








「影真似の術…成功…!」
「そのまま動きを止めててくださいね。そこに3つも生えてますので」
「分かってるから早くしてくださいよ…!」
「あら、すみません。ついでと言ってはなんですが、上の方に虎さんもいらっしゃってるみたいですね」
「だああっ!めんどくせー!!」

めんどくせーとは言いながらも、次々と影を伸ばして動物達の動きを止めていくシカマルさんに安心しながらヒョイヒョイとキノコをむしり取っていく。私はたまに五月雨を打ち込むだけで特に疲れもないのだが、シカマルさんはこの数時間で幾度となく影真似を使っているので彼には少しばかり疲労が見える。が、正直これが1番効率がいい。それに私の術は無駄に動物達を傷付けてしまう。すみませんと心の中で平謝りしながら大きなキノコを手に取ると、一際大きな声が私の名前を呼んだ。

「ハヤさん後ろ!!」

殺気を感じて背中の弓を手に取ると、ガツッという音と共に何かがぶつかった感触がした。私の弓は中々耐久性が高い頑丈な弓でちょっとやそっとじゃ折れたりはしない。ちらりと横目で敵(?)の姿を確認すると、2足歩行をするそれはそれは大きな黒い虎が鋭い爪をたててこちらを睨みつけていた。

「…森を荒らしてすみません。ですがこれも任務ですので少しキノコを分けてもらいたいんです」
「グルルル…!!」
「虎が2足歩行って…マジかよ…」
「シカマルさん、この子は私がなんとかしますのでそちらをなんとかしてくださいますか?」
「なんで隊長の俺がこき使われてんだっつの…」
「口寄せの術!」

私はシカマルさんの言葉を無視して親指を噛み切り、空いている右手を上手く使いながら印を組むと地面にそれを押し付ける。ボボンという音と同時に白い煙が上がった瞬間、灰色に白の班目模様をした綺麗な虎が姿を現した。

「…ハヤ殿ですか?随分お久しぶりですね」
「お久しぶりです。ですが再会を喜んでいる状況ではなくて…とりあえずそこの黒い虎さんをどうにかしていただけませんか?私はこのキノコを取りたいだけですので」
「こんな雑魚ハヤ殿でどうにかできるでしょうに…」
「そんなこと言わずにお願いします、ホウライ様」
「…しょうがありませんね、ハヤ殿の頼みであれば」

漆黒の目を細めた私の口寄せ動物であるホウライ様は、しなやかに鍛えられた(ように私には見える)前脚を伸ばし、ギリギリと弓と攻防していた黒い虎に切りかかっていった。向こう側ではシカマルさんが首影縛りの術で動物を撃退している。最後のアオハンキノコを手に取った所で合図を送ると、なんとか動物達を退けたシカマルさんがホウライ様を見て目を丸くしていた。

2014.04.05

prev || list || next