強くありたい

里の外れにある川縁に朝から足を運んでいた私は、見様見真似で日向一族の柔拳を自分のモノにしようと修行の真っ最中だった。もちろん私には白眼という眼もないし点穴も見えない。しかし、あの動きができるようになれば戦闘でも役に立つ。教えてくれる人はいないけど…

「ハッ!」

元々私は優秀な忍というわけではない。あの頃を考えれば、私が上忍になれるなんて誰も思わないだろう。ネジと競って術を磨いていたとはいえ、結局それは独りよがりでしかなかった泣き虫で痛みに弱かった昔。でも、自分自身の為に強くなるしかないと懸命だった。だから昨日のコトメさんを見ると少しだけ昔の自分を思い出してしまう。

「ハヤちゃん!」
「…ヒナちゃん」

後ろから見知った気配がしてぴたりと手を止めると振り向かずに名前を呼ぶ。昨日、私が無理矢理白眼の治療を施したヒナちゃんよりも先に、朝から部屋を出てきていた私。もちろん会うと少し気まずいなという思いから行動したわけだが、わざわざ本人がこんな所に来るなんて…くるりと向き直ると走ってきたらしいヒナちゃんは息を荒げていた。

「…こ、ここにいたんだ…!」
「おはようございます。ヒナちゃん」
「おはよう…!」
「…昨日のことなら謝りませんよ」
「そ、そんな謝ってもらおうと思ってきたんじゃないの!一緒に修行しようと思って…」
「でしたら是非、」
「それでね!」

下に向けてた顔をばっと上げたヒナちゃんはどこか吹っ切れたような笑顔を見せた。どうしたんだろう…そう思っていると、膝についていた手を離しやんわりと私の手を掴むと、優しさと決意をしたような目が私に向けられていた。

「私が今よりずっと強くなるよ!白眼を使い過ぎないような特訓たくさんする…ハヤちゃんに、悲しい顔は絶対にさせない…!」
「…え?」
「私、自分の言葉は絶対曲げないよ…それが私の忍道だから…!」

この子はいつからこんなに強くたくましくなったのでしょうか。目に映るヒナちゃんの言葉が私の心に染み渡っていく気がする。本当に変わったなぁ、ヒナちゃん…もちろん良い意味で。私の淀んだ心を少しずつ晴らしてくれる数少ない人。笑顔につられるように私も笑みを零すと、私より少し小さいヒナちゃんの体をぎゅーっと抱きしめた。

「わ、!!」
「…私はやっぱり、ヒナちゃんが大好きです」
「わ、私も、」

変わらないといけないのは私も同じなのに…私ももっと、強くなりたい。








「どうなることかと思いましたが…傷も無事癒えてるようですし問題ないかと…」
「そうか。では日向ネジは仮退院じゃなくても大丈夫だな。上忍もかなり人員不足、Sクラスの任務はサイやシノに任せっきりだから助かる」
「それにしてもよくこんなに溜め込みましたね…」
「煩いな。気付いたらこの有様だったんだよ」
「…」

資料や書類が溜まった火影室では、綱手とシズネ、サクラが仕事に追われていた。その紙切れのほとんどは綱手が処理するはずのものであるが、サボっていたことにより弟子である2人も片付けを手伝わされている所で。せかせかと溜まっている資料を纏めているシズネの隣ではサクラが赤ペンを手に椅子に座り、苦笑いを浮かべていた。

「カカシ先生にも任務回せばいいのに…」
「…カカシには別の任務があるからな。それよりサクラ、医療研修第1テストの結果はどうだ?」
「そうですね…これといって目立った成績は見当たりませんが、いのが少しずつ伸びてると思います」
「今回ヒナタは受けてないのか?」
「ネジさんのことがありましたからね…」
「そうか…本当はハヤにも受けさせたいんだが…」
「ハヤさんは攻撃タイプですから、前線に出てもらった方がいいと思いますけど…」
「まァ色々な面でな」
「?」
「失礼します」

首を傾げるサクラと同時に火影室に入ってきたシカマルの姿を視界に入れた綱手は両手に持っていた資料をばさりと机に置くと、面倒くさそうに口を開いた。

「…昼からナルトとツーマンセルの任務じゃなかったか?シカマル」
「あー…それなんスけど…」

そう言うなりグーで何かを包んでいた右手を綱手に向けると、呆れたような顔をしたシカマルがゆっくりと手を開いた。

「「え"っ…」」
「おいコラー!!綱手のばーちゃん!!これは一体どういうことだってばよ!!」

シカマルの手の中にいた黄色の髪の毛、次期火影が決まっている小さな小さなうずまきナルトが体と同じくらいの錠剤を手に、綱手を指差していた。…シカマルの手の上で。

「先日、新薬を5代目からもらったらしーんスけど…それを飲んで今日の朝起きてみたらこうなっていたそうで…」
「…綱手様…」
「なんだ、失敗か…」
「失敗?!失敗ってなんだってばよ!!俺ってばこんなんじゃ任務いけねーし!!」
「うわー……」

席を立ったサクラがじろじろと小さいナルトを観察していると、困ったように笑うシカマルが頭を掻きながら綱手に顔を向けた。

「つーわけで…どうします?綱手様」
「しょうがないね…シズネ、待機命令が出てる奴は誰かいたか?」
「えーと……セナ、キバ君、ハヤちゃん…」
「よし。シカマル、ハヤを連れて行け」
「ハヤさんですか…?ナルトはどうします?」
「1日あれば元に戻るだろ。とりあえずそこの瓶の中にでも入れておけ、サクラ、あとは頼んだ」
「ええっ?!私ですか?!」
「ぎゃあ!」

勢い余って手の平に乗せたナルトをぎゅっと握りつぶしたサクラを見ながら、シカマルは手を合わせてナルトにお辞儀をすると上忍待機室に向かう為に火影室を後にした。

2014.04.02

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