友だとしても

任務から帰還し報告も全て終わらせた私達は、火影邸の前で別れそれぞれの帰路へと向かっていた。ナルトさんはカカシさんを少し気にしていたが、綱手さんの弟子の春野サクラさんが目の前を通ったことでつられるようにその場を離れていき、コトメさんはコトメさんで項垂れたまま終始無言だった。恐らく、今回の任務で1人足を引っ張ったことを悔いているんだろう。

日向宗家の大きい敷地を視界に入れて門を潜ると、目の前ではヒナちゃんとヒアシ様が手合わせをしている光景が見える。息を荒げるヒナちゃんとは裏腹に、至って冷静な目を浮かべたヒアシ様は私が帰ってきたことに気付いたのか、繰り出していた手を止めた。

「…あ、ハヤちゃんお帰りなさい…っ、ぅ…」
「ヒナタ、今日はこれで終わりにする。しっかり体を休めるように」

その言葉と同時に私はびくりと背を震わせる。ヒアシ様の目が私に向けられたからだ。ヒアシ様が私を見たり話しかけたりする時は大概癒無眼関係のことだった。もちろん今回もそうだろう。捲っていた袖を直しながらヒアシ様の言葉を待った。

「ハヤ、ヒナタの目を見てやりなさい。少々酷使してしまったようだ」
「…はい」
「お、お父様…!私は大丈夫です…!」
「ヒナちゃん、着替えたらお部屋に向かいますので少しお待ちくださいね」
「ハヤちゃん…!」

なんとなく分かってはいた。それに今回はヒナちゃんの為に能力を使うんだから何も嫌なことはないと自分に言い聞かせ、ヒアシ様の言葉に頷き返し少しおろおろとしているヒナちゃんに背を向けると、何事もなかったように自室へと歩き出した。

「ま、待って…!」
「ヒナちゃん」

じゃり、と進めていた足を止めると有無を言わせないとばかりにヒナちゃんの名前を呼んだ。珍しく声を張るヒナちゃんが何を言いたいかなんて分かっている。‥正直な所私は自分の持つ眼の力はあまり好きではない。瞳術を持つ一族達は私が産まれるよりも前から白魚一族を狙い、たくさん一族の者が連れ去られ殺されてきた話しは有名だ。瞳術を持つ一族に白魚一族の癒無眼は魅力的かつ恐ろしいものだった為に、その血継限界をどうにか自分達のモノにしようとしていたそうだ。私はそんな戦争の火種になるような力は欲しくなかったし、持ちたくもなかった。右眼に呪印をかけられているのも、日向宗家が力を求めると同時に力を封印したかったからだ。

故に他人に対して癒無眼…癒す能力や失明に追い込む力もできれば使いたくはない。それが例えヒナちゃんやネジが相手であろうとも躊躇してしまうのが現状だ。ヒナちゃんはそれを分かっていて、だからこそ遠慮の言葉を述べているのだ。でもそれを断る術など私にはない。

「すぐ行きますので」

眉尻を下げたヒナちゃんにそれ以上何も言わせないまま、私はその場から離れて行った。

「お父様……、あの、私……」
「ヒナタ。ハヤの"為"だ。分かってくれ」
「…えっ?」
「癒無眼を使いたくないということ、‥本人を見ていればわかることだ」
「…?」
「…着替えてきなさい」
「あ…」

引っかかるような言葉を残し、くるりと背を向けて静かに去って行ったヒアシを視界に入れながら困惑したような顔を浮かべるも、自分の薄汚れた服に気付いたヒナタは慌てて自室へと駆け込んだ。








「見せてください」
「い、いや!だって、だって…!」

ヒナちゃんの自室へ訪れて30分程たっただろうか、私とヒナちゃんはなんともいえない攻防戦を繰り広げていた。疲れ果てた眼を手で覆い隠すヒナちゃんの腕を掴んで、なんとか離させようとするも、これまた中々強情なヒナちゃんは言うことを聞いてくれない。以前にも何度かこういうことがあったが、こんなに強情なヒナちゃんは初めてだった。

「お願いですから言うことを聞いてください」
「い、1日休めば白眼だってちゃんと回復するんだから…だから…!」
「これはヒアシ様の言いつけです…ヒナちゃん、眼を見せてください」
「もう悲しそうなハヤちゃんを見たくないの…!」
「ヒナちゃ、」
「私が知ってる所でも、きっと知らない所でも…癒無眼を使うハヤちゃんは辛そうなんだよ、…使いたくないって、争いになる能力なんて欲しくなかったって、昔私に話してくれたじゃない…今までは我慢してたよ、でもやっぱり…そんな顔をさせてまで私は使わせたくないんだよ…!」
「でも…!」
「っ、い…」
「私がここにいる意味はそれだけなんです…!」

ぐぐっとヒナちゃんの腕を開くと、そのまま床へ押し倒して印を組み右眼を見開いた。私の瞳の奥に広がる熱が、光のようにキラキラしながらヒナちゃんの白眼に吸い込まれていく。そのまま意識を失うように瞳を閉じたヒナちゃんを抱きかかえると、布団の上まで運び毛布をかけた。5分もすればすぐに目を覚ます。そして、眼の疲れもなくなっているだろう。

「手荒な真似をしてしまってごめんなさい…日向との繋がりがなくなってしまったら本当に1人になってしまいます…ヒアシ様に見捨てられたら私…ここにいられません…」

両手をぐっと握りしめて立ち上がると、先程のヒナちゃんの顔を思い出して私は眉を寄せた。

「ヒナちゃんには心配ばかりさせて、本当に申し訳ありません…」

ぽつりと1つ嘆き襖を開けて外に出ると、酷く優しい月が闇の中に浮かんでいた。

2014.03.23

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