真っ赤な記憶

自分の腕から、足から、滴り落ちる鮮血。
一面焼け野原になった街。
ヒトの焦げたイヤな臭い。

『トモリ先輩、俺先輩みたいに強くなりたくて。だから里に帰ったら修業付き合ってくださいね』

『暗部には向いてないって、自分でも分かってるんです…今回の任務終わったら火影様に掛け合ってみようかと思ってて‥』

『この任務の隊長なんて惨いモンだよなあ。お前もよくやるよ…ま、トモリが一番適任だろうけど、とにかく真っ先に死にに行くなよ。帰ったらまず俺がアイツに殺されちまうからな』

『里に帰還したらね、結婚することになってるの。だから心配しないでトモリ。私は何があっても生きるから』


任務中に少しだけ会話をした忍達が目の前に現れて、だけどすぐに全身が赤く染まりドロドロになっていく。

待って、

思わず走りだそうとしても、地面から生えた蔓が私の足に纏わり付いてその場から動けない。ぐいぐいと足を引っ張っても抜け出せず、そのうちに目の前にいたはずの仲間達は完全に溶けて無くなり、代わりに地面には大量の鮮血だけが残っていた。

皆生きて帰ると、信じていたのに…私が‥

ぼたぼたと滴り落ちる血になんか目にもくれず、蔓から解放されようともがいてもビクともしなかった。死の恐怖に支配される敵の顔が、無残に殺されていく仲間の顔が、既に事切れた仲間の顔が、何度も何度もフラッシュバックする。

誰もいない、1人きりの空間。
酷く喉が渇いて声も出ない。

忍には常に死が付き纏うなんてこと、そんなのよく分かってる。分かってはいても忍だって人なんだ。失うのはいつだって怖い。自分が人を傷付けてしまうのはもっと怖い。頭が狂ったように声にならない叫びを上げ続けていると、小さい、けれどとても眩しい光が私の目に飛び込んできた。








「ウミ!」
「あ、ぁ……!…は、せん、ぱい、」

ばちっ!と目が覚めた瞬間私の目に飛び込んできたのは、酷く心配そうな顔をしたカカシ先輩だった。そうだった、私昨日木の葉に帰ってきて、家壊れてて、カカシ先輩の家に来ていたんだった‥。

「…よかった…お前すごい魘されてたよ。大丈夫?」
「…夢……」
「昨日うちに来てからご飯用意してる間にいつの間にか座ったまま寝ちゃっててね。疲れてるのも分かってたし起こさないでおいたんだけど…なんか食べる?昨日もお腹減ってたでしょ」

トレードマークである左目を隠した額当てを外しているカカシ先輩は、眉間に皺を寄せていた顔をほっとしたように綻ばせた。確かによく見れば私が寝ていたらしいのはカカシ先輩のベッドのようで、その側にある小さめのソファには厚めの毛布が無造作に投げ出されていた。

「…いえ、大丈夫です…」
「そこのテーブルの上に茶碗置いてるから食べて。ご飯と味噌汁は台所にある。俺もう行かないといけないけど夕方には戻れると思うから」
「あの、お腹空いてな」
「食べて」
「………はい」
「何処か出かけるならスペアが玄関に掛かってるからそれ使ってね。無理しないよーに」

「はい以外は許さない」という雰囲気をまといながらカカシ先輩はそう言うと、私の頭をぽんぽんと撫でた後いつものように額当てをして玄関から出て行ってしまった。あの人はいつまで私のことを子供扱いする気なのだろうか。

それにしても寝覚めが悪すぎる。薄っすら汗のかいた額を手で拭って布団から出た私は、カカシ先輩お手製朝ご飯が入った炊飯器に目を向けたが食べる気にはなれなかった。服も暗部の装束のままで、布団の中も泥や血で汚れている。さすがに申し訳なくなって一式丸々洗うことにした私は、立ち上がってベランダへの窓を開けた。








「あいつの様子はどうだ?カカシ」

火影室に呼ばれて顔を出せば、明らかにニヤニヤしている綱手様が書類片手にそう聞いてきた。

ああ、この人も女なのね、ウミが俺の家に泊まって何もないわけないって、そう思ってるわけね。はいはい。だがしかし残念ながら思惑通りにはいかないのが彼女だ。はあ。なんともめんどくさい雰囲気の中で俺は口を開くしかなかった。

「まあ‥当分任務の疲れは取れないでしょーね」
「そんなこと私だって分かってるさ。修羅の国の任務から帰ってきたのはアイツが初めてらしいからな、1日足らずで復活されてもこっちが心配する」
「はあ…じゃあ綱手様は何がお聞きになりたいと‥」
「お前は私をおちょくってるのか。カカシは随分ウミと仲が良かったらしいな。いろんな記録に残っていたぞ」
「そりゃ3代目に任されてましたからね」
「任務外でもよく一緒だったんだろ。お前みたいな奴がどうでもいい奴と1日一緒にいたり一緒に飯を食ったりするのか?」
「彼女とは家族のようなものでしたからねぇ…」
「ハッ!素直じゃないねぇ全く……まあいい、その調子でアイツのことは頼んだからな。あと今日の任務についてはこれに書いてある。全部やれ」

2、3枚の紙にびっしり文字を連ねているそれを適当に渡された俺は、任務より(恐らく)色恋沙汰の話しなんてどーいうことなのよと心の中で文句を垂れながら、今だニヤニヤしている綱手様を無視して火影室を出た。

「シズネはどう思う?」
「さあ‥でもあのカカシさんですよ?本人もああ言ってましたし、本当に家族愛的な感じだと思いますが…」
「いやあれは何かあるな。なんなら賭けようか」
「…綱手様、賭ける物今無いですよね…?」

2014.02.08

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