王子様なんて興味無い

火影邸の前、任務の集合時間まで残り5分と迫っているにも関わらず、姿を見せているのは私だけだった。今日のメンバーは確か上忍のカカシさんと下忍のナルトさんと、中忍の日暮硯コトメさん。なんでカカシさんにナルトさんなのに実力の全くそぐわないであろうコトメさんがメンバーに入っているのか…いや、それよりも皆10分前行動5分前集合という言葉を知らないのだろうか。溜息を吐きながら風で少し乱れた髪の毛を直していると、前方からずだだたっと走ってくる黄色の髪の毛が見えた。

「ギリギリセーフだってばよ!!」
「全力で走ってくるくらいならもっと余裕を持ってきたらどうですか?ナルトさん」
「う…ハヤのねーちゃん相変わらず早ぇ…」

ナルトさんとは私が上忍になってから何度か任務で一緒になったことがある。奇想天外な行動をすることが多いので、ナルトさんとの任務をする時は私の作戦もあまり意味を成さない。今回はカカシさんというストッパーがあるからまだいいものの…

「今日は真面目に働いてくださいね」
「俺ってばいつも真面目なんだっての!」
「でしたら人が立てた作戦くらいはちゃんと聞いてくださいな」
「聞いてないわけじゃねーの!効率がいいって思ってやってんだってばよ!」
「実力しか認めてませんので、効率が良い悪いの判断は自分でしないでください」
「厳しーってばよ…」
「返事は?」
「うっ…わ、分かったってばよ…」
「それならよかったです」

にこりと笑いかけるとナルトさんの顔が青くなった。しかし、ナルトさんが分かったとは言っても任務につくと、毎度の如く私の言ったことを忘れて行動している。どうしたものかと思いながらふとナルトさんの後ろに目を向けると、なんだか落ち着かないカカシさんがいつの間にか姿を見せていた。その顔はいつものようにマスクと額当てで覆われているものの、よく分かるほどに顔が破顔している。気持ち悪い程に。

「…カカシ先生キモいってばよ」
「いつもの本を読んでないのにその顔はないですね」
「君達失礼すぎるからね」

失礼かもしれませんけどそういう顔してるのカカシさんですからね?しかしここまで破顔するカカシさんも珍しい。会う度に眠そうな顔をして、任務の時はやる気を見せない癖に(任務自体はしっかりとこなすから文句は言わないけど)。

「お、来た来た!」

ナルトさんの声に反応するように火影邸に向かってくる前方の人物に目を向けると、空色の髪が目立つ日暮硯コトメさんを視界に入れた。

「…え」
「遅いねーお前。遅刻はダメだぞー」
「それはカカシ先生が言っていいセリフじゃないってばよ」
「全くもって同感します…」

約10分の遅刻。時間も守れないようじゃダメだと口を開こうとしたが、私達3人を見たコトメさんがひくりと口を引きつらせ、それを見ていたカカシさんが言える言葉ではないことを口にしているのを聞いて私は呆れたように言葉を零す。ヤレヤレと肩を窄めるカカシさんのそばでは、目に見えるように謎の喪失感を出しているコトメさんの姿。

「え、なんで急にやる気なくしてんのこの子…」
「おおーい、コトメ、大丈夫かってばよー」
「綱手さんも何を考えてこのメンバーを組んだのか…私も疑問ですが、とにかく任務に出発しましょう?コトメさん」
「ハヤさん…」

コトメさんの一族のことはよく知らないが、コトメさんの噂ならよく聞いていた。一族の中でも中々出来の「悪い」忍らしく、特異な秘術を扱う良い能力を持っているのに全く使いこなせていないそうだ。まあ私には関係のないことだし、強くなる為の努力を怠っているのだろうと勝手に結論付けているが。

「今日の任務って…護衛なんですよね…?」
「ん?まぁーね。でもいいとこの王子様だから、俺等がついてるって感じ?」
「私がいる意味って一体…」
「コトメさんはまだ里外任務は出たことがないということらしいので、戦争も落ち着いた今がいい機会だということではないでしょうか?」
「え、コトメお前まだ里外任務出たことねーの!?」
「こらこらナルト…まぁとにかく、もう里の門近くに王子様もいらっしゃってるみたいだから、行こうか」

眉尻を下げて前を歩き出すカカシさんに続いて歩き出した。ちらりと後ろを盗み見ると、不安を隠し切れないコトメさんの様子が伺える。‥この任務、無事に成功するのでしょうか‥。








「初めまして。本日王子を護衛させていただきます、はたけカカシです」
「うずまきナルトだってばよ!」
「白魚ハヤです」
「日暮硯コトメです、よろしくお願いします!」
「どーも。しっかり護衛してくれよな」

門の前。ムカつくくらい偉そうな態度を見せる王子に頭を下げると、カカシさんを前衛に私とナルトさん、コトメさんが後衛に回る。こんな人に護衛なんてとは思うが、一応砂のお客様なので私は笑顔を向けたまま心の中で暴言を零している所だ。

「ふあーぁ…ったく、オヤジめ、護衛なんていらねーっつったのに…しかも4人も」
「まぁまぁ。お父様も心配されてたんですよ」

キラキラと鮮やかに光るネックレスやブレスレットが目に痛い。なんでそんな物を、ただ道を歩くだけなのにする必要があるのか…全く、金持ちの考えることはよく分からない。

‥というか、さっきから後ろをつけられている。ちらりと後ろを盗み見ながらカカシさんの様子を伺う。特に何も感じていないのか、王子様の話しに適当な相槌を打っていた。

「つーかそれより、俺の隣歩くなら、あの人がいいんだけど」

周りに気を張っていると、突然前にいた王子様が私を見て指差していて。この人自分が狙われている対象だって分かってるんだろうか…という訳にもいかずに嬉しそうに笑みを取り繕いつつ、口を右手で押さえて愚痴を零した。それを察したのか、カカシさんが改めて王子を守る為の作戦であることを告げる。

「これも貴女様に何かあった時のための作戦で配置を決めておりますので、申し訳ない」
「チッ、そーかよ」

うだうだと文句のようなよく分からない言葉を述べて歩く王子様の隣で、カカシさんは非常に気まずそうな笑みを零している。‥いや、それよりも。気配が増えてる。後ろをつけているような気配とはまた別の気配を感じて木の上へと目を向けた。この間の任務の時とはまた違うもので、目的もどうやら違うように感じられる。何故かと言えば、その視線は王子様の高級そうな服や宝石へと注がれていたからだった。

2014.03.18

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