最恐の笑顔に要注意

「皆ー!静かにしろー!!」

騒がしい子供達の声に顔を顰めていると、イルカ先生が手を叩きながら大きな声を張り上げた。生徒約30人、いろんな子供達が目に映る。喧嘩していたのかお互い首根っこを掴み合う男の子に、それを囃し立てる周りのギャラリー達、グループを作ってキャッキャッと話している女の子達…

「イルカ先生ー、その人誰ー?」
「凄く綺麗な人!イルカ先生のカノジョですか?!」
「バカもん!早く席に座れ!」
「先生照れてるー!!」

面白おかしそうに笑いながら席に戻って行く女の子達を見つつ、私は手に持った資料を教卓の上に置いた。イルカ先生、昔から生徒にいじられる所も変わってないんですねと小声で告げると、苦笑いしながら頭を掻いていた。しかし、それもイルカ先生が慕われているからこそである。大人しく席に着いた生徒達を見回しながら一息ついたイルカ先生は、今回の仮試験の資料を皆に見せながら口を開いた。

「今日は予告していた通り予行試験をするぞー!今回は変化の術で行うから名前を呼ばれたら者から教室に入るように!」
「ええーーーーっ!!変化の術ぅー?!」

否定の声を上げ始める生徒達に昔もこんな感じだったなあと、くすくすと笑みを零れた。私の時は分身の術だったと考えながら過去の残像と今見ている景色を重ねる。あの時はネジと争うように静かに競って術を勉強した。だからこそ今の私がある。

「分身の術がいい!」
「よかったー、変化の術は得意だぁ…」
「はいはい静かに!!で、今日は元俺の教え子である上忍の白魚ハヤさんにお前達の実力を見てもらうからちゃんと真面目に取り組めよ!」
「えー!女に見てもらうのかよー!俺木の葉の英雄に見てもらいてーよ!」
「あ!私もうずまきナルトさんに会いたい!」
「俺もー!先生の教え子なんだろー?!」

生意気そうな男の子の発言にぴくりとこめかみが動く。だから私では役不足な気がしたんですけど…笑みを携えたまま置いた資料に手をかけるとやんわりと力を込めた。それを知ってか知らずかイルカ先生は溜息を吐いて、生徒達に呆れた顔を向けた。

「お前達ハヤの実力を知らないからそんなこと言うんだろうが、ハヤはすごく強い忍なんだぞ!全く怖いもの知らずめ…」
「どこが強いんだよー!ちょっと美人なだけで弱そーじゃん!」
「ちょっとじゃないよ、凄く美人だってばぁ」
「あのなぁ、おま…」

タタタッという音が教室に響き言葉を繋ぐはずだったイルカ先生の口が止まった。それなりに鍛えてきた自分の実力を馬鹿にされて腹が立つのは、至極仕方のないことだと思う。ちょっとだけ驚かせる程度に3本程本物の千本を投げてやると、1番後ろで私を馬鹿にしていた男の子の持っている鉛筆に綺麗に刺さる。何が起こったのか理解するのが一瞬遅れた男の子は、その鉛筆を見て顔を青くさせた。

「な…なに、すんだ……」
「私の実力が疑問のようでしたので。よろしければ耳の穴に千本を打つことも可能ですがいかがなさいますか?」
「「「……」」」
「えー…まぁ、あんまり怒らせるなよ…ハヤこう見えても凄く怖いから……じゃあ、とりあえず皆教室でようか…」

シーーンと静まり返った教室内にイルカ先生は一つ咳払いをすると、私を横目に見ながらそそくさと生徒達を廊下に出した。ぞろぞろとこちらをびくびく見ながら教室を離れていく男女の生徒達。もちろんあの男の子は顔を青くさせたままだ。

「拍車がかったように怖くなったな…」
「生意気言うのであればそれ相応に私と対等であるべきです。それに私は昔と変わっていませんよ」
「俺はハヤを敵に回したくないよ…」
「褒め言葉ですか?」
「そうだな…ハハ…」

生徒のいなくなった教室でイルカ先生と雑談を交わしながら試験の用意を整える。名簿や資料を教卓に分かりやすく並べた所でイルカ先生は最初の生徒の名前を呼んだ。








「ハヤこっわーい…同期でよかったよ私」
「殺気漏れが半端なかったですね」
「この仮試験は色んな意味で死人が出そうだな…」

窓の外、草むらの影に隠れながらハヤのいる教室内を伺っていたテンテンとリー、外出許可をもらうことができたネジは、先程の男の子の顔を思い出しながらふーっと溜息を吐く。その気配に気付いたのか、ハヤが草むらに目を向けてにっこりと微笑んでいたのに背筋を凍らせ、3人一緒に肩を竦めて口を引きつらせた。

2014.03.16

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