蒼の児

「ぎゃーーーーーーーう!!!!」
「「……」」

火影室。その怪獣のような泣き声には、かの3代目火影も苦笑いをすることしかできなかった。まだ母親のお腹の中から出されるべきではない程の未熟な体を守る為に、特殊な結界と羊水のような液体のボールの中で人として体ができあがるのを待っていた、まだまだ色素の薄い空色の髪を持つ赤子。光の国、コウの里、いや、忍の世界でもトップレベルの結界術を持つと言われる日暮硯一族。その血を継ぐ赤子の声は、今だ火影室に響いていた。

「す……すごい声ですね……」
「あのシキミの娘とは思えん大声じゃな……こんなに怪獣みたいな泣き声をする赤子に会うのは初めてじゃ……」
「よ…よーし、コトメちゃーん、俺の顔は見れまちゅかねー…?」
「うっぎゃああ!!!!!!!」
「顔見て泣かれた…」
「シカク…すごい顔じゃったぞ…」

まさに男2人にはお手上げ状態。赤子のコトメに伸ばした木の葉の中枢である奈良シカクの手は大声での拒絶を受けたことによって触れる寸前で止まっている。よくそこまで声を張り上げて喉が枯れないものだ…とりあえず涙を拭く為にタオルを手に掴むと、「ヤーヤー」と謎のあやし声をかけながらまたシカクは近付いた。

「あーーーーーーー!!!!!!!」
「……お主の所に預けて大丈夫かのぉ…」
「ハ、ハハ……シキミちゃん家と仲良かったのはウチくらいですから…シキミちゃんもウチに娘がいるってんなら安心でしょう、やっぱり」
「……儂は不安じゃ」

ピンクの柔らかいタオルをほっぺたに添えると、頭をぶんぶん振りながら嫌がるコトメ。それを見て不安しか募らない3代目火影。

木の葉に器達が移住した直後、3代目は器達をどこに住まわせ、誰に保護を任せるか考えていた。既に保護をつけた者もいる、まだ何も決まっていない者もいる。その中で唯一コトメは、木の葉に奈良家という繋がりがあった。もちろん奈良家には産まれたばかりのシカマルもいる、そこにただ仲の良い間柄だけである人物の娘の保護を頼むなど妻であるヨシノにも負担がかかる。…3代目は保護を頼む手前、そうも考えていたのだが。

「シキミちゃんの娘?いいわよ、ねえアンタ」
「そうだな、娘だもんなァ…」
「…お主等、そんなに簡単に言うが子供じゃぞ、それにヨシノはもうすぐ息子が産まれるじゃろ。そんなに慌てて答えを出さんでも…」
「大丈夫ですよ、男の子なんて元気に遊ばせとけばなんとかなりますって、3代目。それにこの人の息子ですよ?」
「そりゃあどういう意味なんだ…?」
「シキミの子、どんな子かしら〜。名前って決まってるんですか?」
「ま、まあ一応聞いているが…」
「いっぺんに子供が2人もできるなんて嬉しいわね〜!」

物凄く嬉しそうに頬を緩ませていたヨシノの笑顔は記憶に新しい。そして2ヶ月程前に奈良家の息子・シカマルは通常の子供よりだいぶ大人しくこの世に生を受けていた。そう、こんなに泣く子ではなかったのである。

「やっぱ俺ん家の息子が産まれた時はだいぶ静かだったんだなァ…」
「うーーー!!!ぎゃああううーー!!!!」
「シカク、本当に任せて大丈夫か…?」

無理矢理シカクはその腕に抱いてみるも、物凄い暴れようで忍服も一瞬にして涙と鼻水でべったべたである。シカマルとは随分対照的ではあるが、シカクは男の子にはない愛らしい(?)泣き顔にでれでれと破顔させるのであった。








「それにしてもよく泣くわねー」

奈良家。ベビー布団を横に並べて右にシカマル、そして左にコトメ。ジト目でコトメを見つめるシカマルと、ぎゃんぎゃんと泣き叫ぶコトメ。この対照的な光景が面白過ぎて、ヨシノは料理を一時中断して寝室へと足を運んでいた。

「シキミの娘っていうから大人しい子かと思ってたんだけどまあイメージと違って当たり前よね」
「涙はいつ枯れるんだ…?」
「それよりアンタ、コトメちゃんは5歳までウチで預かるってことになってるって聞いたけど、それからはどうするの?」
「それはまだ考え中だとよ。ま、奈良家の近くには置くって話にはなってるが」
「ずっとウチでもいいのに」
「一応家系が日暮硯一族だしな…それに兄弟だったらまだしもいずれシカマルも思春期迎えるだろ。最終的には"青龍の器"ってのが絡んでるからっていうのもある、内面的にも強くさせなきゃいけねえのはコトメちゃんの為だ」
「………ねえ、シキミ……本当に死んだのかしら…実感がないから、あの子強いし…」
「…切り刻まれた死体も多かった、人物の特定はできないが里を総べていたヒグレさんの死体の近くには色んな"モノ"が転がっていた。ヒグレさんの近くには優秀な忍がそろっていたはずだ。…恐らく、シキミもな」
「…」

2016.02.25

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