1歩はきっと、進歩。

「うおわああ!!!」
「な、にこれ‥!?言うこと全然聞いてくれない‥!」

目の前では、私を中心に放たれる大きな水の針からキバと赤丸がひたすら逃げ回っている。水だし、強度はそこまでないはずだなんて当てにならないことを考えた瞬間、キバが避けた後ろの木に命中して10cm程の風穴を開けていた。

あんなのに貫かれたら怪我じゃ済まないよ‥!!慌てて自分の体に纏わりつく水の針を掴もうとしても、パシャパシャと本物の水みたいに液状になっていて掴めない。体の奥から物凄い量の力が湧き上がってくるばかりで、加減も全くできない。

「おい!!コトメはなんともねえのか!?」
「わ、私は全然‥!それになんかよくわかんない‥‥怖い、この変な力抑えたいのに、抑制できない‥!!!」
「バカ!!!泣くな!!」

手が震えて、目の前が揺らいできた所でキバの大きな怒声が響いた。走り回るキバが、水の針が襲ってくるのを確認しながら怒った顔を向けている。

「ど、しよ‥‥ごめ、キバ、私‥!!」
「強くなる為にはこれだってお前1人でどうにかしなきゃいけねーんだぞ!!俺と赤丸は大丈夫だから弱音吐く前に考えろ!!!これはコトメにあった力だろ!!?」
「っ‥」
「すげえじゃねえか!!!」
「!」
「コトメ!!安心しろ、俺と赤丸はお前を信じて逃げ切る!!!だからお前がなんとかしろ!!」

‥キバ。

木に何本も風穴が空くのを見ながら、私はキバの言葉にゆっくり頷いた。‥そうだよね、私がこの力怖いなんて、言ってたらいけないや‥キバの方が怖いはず。命の危険を感じているんだから‥。

まずは、力を抑えなきゃ‥!!パン!!と両手を合わせて、チャクラを練る体制をとる。落ち着け、落ち着いて。深く息を吐くと散らばっている力を1つにすることを考えて両手の平に集中した。‥少し落ち着けば分かる。物凄い量のチャクラは‥‥元々私にある力じゃない。

【‥‥‥‥こえるか、応えろ】
「っ敖光さん!!!?」

突然聞こえた低く響いた声に思わず声が上ずった。あの日以来、全く音沙汰なし、というかどうやったらまた会えるのかと思っていた人物。‥というか生物。私の中に封印されているという、"青龍"という四神獣。

【現実世界でこの声が聞こえるようになったか。進歩はしているようだな】
「進歩とか今すっごいどうでもいいの!!これ!!敖光さんの力だよね!!?どうにかできないの!!?」
【勝手に私の力を引き出しておいてよく言う‥これはお前の意思で引き出された私の力だ】
「すみません!どうにかしてください!!」
【お前阿呆だと言われるだろう】
「人の話聞いてよおお!!!」
【私がどうにかしろ等と泣き言を言うな。お前はシキミの娘だろう。なんとでもなる】
「お母さんと一緒にしないでください!私は‥!」
【弱者。未熟。無力。‥そう言いたいのか?】
「っ‥!!」
【言葉で自分を抑えつけるな。変えたいだけの努力はしてきたはずだ。奴にも言われただろう。"お前がなんとかしろ"と】
「わ、分かってる、分かってます‥!!分かってますってば!!!」

も〜〜〜!!!!イライラする!!私だってそんなの分かってるってーの!!!もういい!!誰も頼ってやるもんか!!!

「‥‥‥って‥‥、あれ‥?」

そう思い、踏ん張った瞬間だった。突然力がピタリと収まった‥気がする。バッと目を向けた先には、大きな水の針が赤丸に届く直前で止まっている。私は何もした覚えはないのに‥どうして‥

「こ、これ‥コトメがやったのか‥?」
「え?」

驚いたように口を開いたキバに、素っ頓狂な声が出た。よく見ると、キバと赤丸を包むように薄い膜が張られている。止まっているように見えた大きな水の針は、その膜に刺さって停止していた。

「なに‥も、もしかして‥敖光さんが助けてくれ‥」
【‥未完成ではあるが"三無結界"‥‥やはりシキミの娘、ということか】

2017.03.04

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