優しさに溢れていたの、

「……」
「あれま。ここって被害受けてたままだったの」
「まさか‥知ってたんじゃ…」
「あ、いや、民家の復興作業はだいぶ片付いてたハズだったからさ、そんなに怒らないで!ね!」

先程まで演習場の近くから里を見下ろせる場所にいた私は、ふと顔を上げたことで日が落ちていたことに気が付いた。「帰る?」というそんなカカシ先輩の言葉に頷いて、私は長年空けっ放しだった自分の家へ帰ることにしたわけだ。民家から少し外れた茶色のアパートが私の住む家なのだが、見慣れた風景の中に現れたのはレンガや石が無造作に積まれた家と言うには程遠い残骸だけ。第4次忍界大戦の際に住宅街にも被害があったそうだが、それを知っていたのならなんで早く言わないのかと先輩を睨みつけるしかなかった。

「んー…とりあえず綱手様の所に行ってみるか…」
「はあ…待っててください、写真だけでも探します」
「写真?…あ、待ちなさいって」

崩れた残骸の中に足を踏み入れると、一番右端付近にある瓦礫からどけていく。部屋は生活感も家具もそれ程無かったから割と早く見つかるだろうと思っていたが、私の住んでいた所は2階だったせいもあってか、1階に住んでいた人の生活品が混ざり合い食料やらガラスやらで散乱していたので結構面倒くさそうだった。おまけにまだ2月なので日の落ちも早い。それに寒い。

「お前、写真なんて部屋に飾ってたっけ」

なんで知ったように聞くんですか。と、そう言いそうになった所でやめた。それはカカシ先輩が私の部屋に(無断で)出入りすることがあったからだ。それを分かってて飾るわけないでしょう、そう心の中で吐き捨てながら無言で探す。

私が探してる写真というのは、ベッドにある小さな収納口の中に隠れている筈の、中忍昇格祝いの食事会で数名と撮った写真だ。私と同期のイルカ君、カカシ先輩と同期のアスマ先輩、ガイ先輩、紅先輩、アンコ先輩。初めての食事会、初めてのプレゼント、初めて撮った写真。企画してくれたのはカカシ先輩だと、イルカ君がそう教えてくれた。

嬉しかった。

アンコ先輩と紅先輩が男性陣をお酒で潰しにかかって騒がしくて、ガイ先輩がカカシ先輩に勝負を挑んでて、イルカ君はひたすら世話を焼いて、アスマ先輩はひたすら苦笑いしてて。凄くうるさかったけど…あの時初めて上手く笑えた気がした。写真の中の私は笑ってなかったけど、初めてが詰まっている薄っぺらい1枚の画像は私の数少ない宝物だ。








探し始めて30分、無言で探す私を見てカカシ先輩も瓦礫をどかしながら捜索しているらしい。‥と、見覚えのある木製ベッド。右手でガラガラと残骸を払いのけると、取手口は割れていたがその中に紙切れが1枚。

「ーーーあ、った」
「見つかった?」

埃は被っているものの写真自体に傷はない。ほっとした所でポーチを開けると、折り目が付かないようにハンカチで包んだ。

「えー、見せてくれないの?」
「理由がありません」
「探すの手伝ったのに?」
「頼んでません。手伝ってもらってすみませんでした」
「…お前ほんっと昔っからすみませんばっかだよね、俺は謝れるより、お礼の言葉の方が好きだなぁ。前にも言った気がするけど」
「…すみません」
「ありがとう、でしょ?」
「…ありがとう、ございます」
「じゃあ写真見せて」
「イヤです」

なんとなく恥ずかしいのと、カカシ先輩なら間違いなくからかってきそうだという理由から、私は火影室までの道のりを歩く間ポーチを死守していた。油断なんかしたらこの人は絶対隙をついてくるから。

2014.02.02

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