頼もしい掌に押される

「……すんだよ、」
「え?」
「死んだらどうすんだよ、修行に行く場所、危険な状態なんだろ…」
「…」
「俺は賛成できない」

はっきりそう言い切ったシカマルに思わずむっと顔を歪めた。少なくとも、シカマルなら納得してくれるって思ってたのに、頑張れって言ってくれると思ったのに…

「…死んだらどうするとか、そんなの聞くなんて違うよ。私だって忍だもん。それに…やっぱり今のままじゃダメだと思ったの、環境から変えないと強くなれないって感じたんだよ…」
「…」
「……私は昔任務で班の仲間を殺しかけて、信頼を失った。今は当時よりも心の許せる仲間がいるの…昨日ロウさんと話した時に"また"って言われた時、すごく…怖くなった…それに昔とは違う、青龍っていう私の中にいる神獣のこともある」
「…リスクの方が、よっぽど高ぇんだよっ…」

独り言のようにぼそっと呟いた後にぐしゃぐしゃと頭を掻くと、シカマルはくるりと私に背を向けてポケットに両手を突っ込んだ。なんか…シカマルが違う人に見える。余裕なさげな態度なんか初めて見た。

お前なら大丈夫だとか…言ってほしかったわけじゃない、けど‥。溜息を吐きそうだった口を閉じて必死に飲み込む。何も言うことがなさそうなら火影室に戻ろう…少し落胆しながら、そう考えて足を踏み出した。

「…分かってんだよ」
「え?」
「お前が強くなりたいって必死になってることだって分かってんだ…けどもしものことがあった時、俺は覚悟なんてできねえ…もやもやすんだよ、この辺が」

この辺って言われても背中向けられてるし一体どの辺か分からないんですけど…なんてこの空気にツッコミを入れる度胸はない。シカマルの声色は酷く怯えているような気がした。

「…5代目が許しても、俺はそんなこと許すつもりねえから」
「ちょ、なんでシカマルの許可なんて、」
「あー……ちょっと頭冷やしてくるわ…」

そのままぺたぺたと歩き出したシカマルを止められることなく見送ってしまった。なんだか本当、シカマル変だったな…無理だって思われても、しょうがないけどさ…。しょうがない、けど。

「終わったか?」

飲み込んでいた溜息が無意識に吐き出されて肩を落としていると、火影室から出てきていたらしい綱手様が壁に寄りかかって私を見ていた。随分おかしそうに顔を綻ばせているが、何がそんなにおかしいのかと首を傾げていると、コツコツと私に向かって足を進めていた。

「信頼とか無理とか、そう言うことだけじゃないな、アイツは」
「やっぱり聞こえてましたよね…」
「お前、シカマルの事ならよく分かってるだろ。仲間が危険な任務に出る時に止めたりしてたか?」
「しませんよ、シカマルはそんなこと……多分今回に関しては私が弱いから、死にに行くだけだって思ってるんです…」
「そうじゃないだろ、あれは」
「?」
「…まあいい。それとコトメ、さっきの話だが」
「あ、はい!」
「許可は出してやるよ。ただ1つ私と約束しろ」
「約束、ですか?」
「強くなって、無事に帰ってくること。これが私との約束だ、いいな」
「綱手様…」
「誰だって強くなることはできる…そのキッカケを掴むか逃すか、それだけだと思うんだ。正直お前の兄の件もあるが、ロウ達がついてるからな。大丈夫だろう。お前にやり遂げられる気があるっていうなら私はその背中を押してやる」
「あ、ありがとうございます!!」
「だが後の説得は勝手にしろよ」
「うっ……が、頑張ります……」

ニッと笑って私の背中を叩いた綱手様が、とても頼もしかった。さすが火影様と言うべきか…少しだけ雲ってきていた心が晴れた気がした。1週間後にまたここで修行前に会う約束をして頭を下げると、頭を冷やしに行くと言っていたシカマルを探しにその場を離れた。

2014.12.17

prev || list || next