少女の決意

「コトメ、相変わらずねえ貴女」
「何も言えませんロウさん…」

私の目の前でふんっとローエン君が鼻を鳴らす。その横では、とうとう痺れを切らしたらしいロウさんが珍しく逆口寄せを使ってここに来てくれていた。主従関係もうおかしいことになってる…どっちが主なんだ…どんよりとしながらすみません、とロウさんに土下座した。

「でもまあ…これからでしょうね。貴女自分の中に何かがいるって気付いたでしょう?」
「何……あ、青龍さんのことですか…?」
「敖光様の力は強い。嫌でも制御できるようにならなきゃ…今度こそ仲間が死ぬわよ、コトメ」
「ッ…」

仲間が、死ぬ。昔一度、敵にかけようとした空間術を仲間もろともに誤ってかけてしまい、"毒霧箱"という術を発動してしまったことがあって、術者である私はパニックになって術を解くこともできなかった。空間術をかけ終わるまでは術者は動けない。だから、外部からの攻撃に弱い空間術の結界にも触ることすらできなかったのだ。幸いにも近くに任務帰りの仲間が近付いていたからよかったけど…

「コトメ!!お前班員を殺す気か!!」
「私嫌、コトメちゃんと一緒の下忍チームなんて!」
「俺も!」

「やだよ!あいつと一緒なんて殺されるじゃん!」
「せんせー、今日私行きたくない」

「……あ…」

チームになって仲良くなった仲間にそう言われたことがある。自分のせいではあるけど、それがトラウマとなってあれ以来実戦で空間術を使うことはなかった。

「ねーおいらもう帰っていい?眠いよ…」
「そうね…じゃあローエンは先に帰ってなさい。お父さんには少ししたら帰りますって伝えておいて?」
「うん。じゃーなコトメ、今度はおいら口寄せなんてすんなよな!」

そのままロウさんはローエン君の口寄せを解くと、立ち上がって私に近付いてきた。あーあ…結局今日もちゃんと口寄せできなかったな…何か言われそうな気がして背筋をぴんとさせると、ロウさんの綺麗な蒼い瞳とぶつかった。

「コトメ」
「は、はい…」
「"弱音も吐かない、何があっても諦めない"…そんな気持ちがあるんだったら私に少し考えがあるの」
「考え?」
「ええ。私達の住んでいる岩狼豪( がんろうごう )で貴女にみっちり修行をつけてあげるわ」
「がんろーごー?」
「私達が住処にしている場所よ。そこには私だけじゃない、ロンもいるし他の狼達もいる。学ぶことも多い…空間術のスキルも上げることができる。いつも口寄せで時間取られちゃうんだもの、効率的かつ戦闘能力も養えるわ」
「…」
「もちろん危険がないとは言えないわね…今は縄張り争いも多く死んだ仲間もいる。ロウから聞いたんでしょう?私達狼と日暮硯一族の関係は」
「それは…はい」
「無事でいられるかは貴女次第。コトメが強くなればいいだけの話。そうね…半年程木の葉を空けることになるわ。でも今の貴女がここにいてもいなくてもなにも変わらない」
「…っ」
「泣かないの。それは事実でしょう?」

確信を突かれてぽろぽろと涙が零れた。悔しかった。でも確かにそうなのだ。私は木の葉の為に何ができていたのか、なんて問われても何を答えることはできない。むしろお荷物でしかない。青龍が封印されている、ただの木の葉の里のお荷物だ。

「……る、…」
「何?」
「やり、ます……私に、全部教えてください…」
「…耐えられる?仲間はいない、修行中は木の葉に返さない。たった半年、だけどきっと長く感じるわ、今の貴女なら」
「耐えます…っ……私、シカマルや、いのや、ナルトや、…皆のお荷物になりたくない……私の手で皆を殺すことがあるかもしれないなんて、そんなの…絶対に、いやだ……!」

ロウさんの目を見てると以前の記憶が蘇ってくる気がして怖かった。でも、もうそんなこと、言ってられないんだ…ごしごしと袖で目元をこすると、赤くなるわよ、とロウさんがぺろぺろと目元を舐めてくれた。くすぐったい…ぐすぐすと鼻を鳴らして気持ちを落ち着けると、下を向いて目を閉じた。‥変わらなきゃ…守ってもらってばっかりなんて、嫌。

「…ロウさん私、やります。お願いします…!」

2014.11.13

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