国の紐解き

「コトメちゃんもう帰るの?」
「はい!」
「折角だしもう少しいたら?」
「やりたいこともあって!えと、すみません…」
「そう、だったらしょうがないけど…まあ私が寂しいから、本当にコトメちゃんいつでも遊びにきてね?」
「‥分かりました!ありがとうございます!」

私の両手をぎゅーっと握ってじっと見つめてくるヨシノさんにこくこくと何度も頷く。あのめんどくさがりのシカマルのお母さんとは思えない…ヨシノさんの言葉がすごく嬉しくて思わずうるっと目を潤ませると、それじゃあ、と奈良家の敷地内を出た。というか、私の家は奈良家のすぐ隣なのになんでこんな感動の別れみたいになってるんだろうか。後ろをちらっと振り向くとヨシノさんが外に出てきて手を振り続けていた。

「…ただいまー」

誰もいない室内へ入ると、スイッチを押して明かりをつけた。1人にしては広い1LDKの部屋に自分の声だけが響く。奈良家から帰ってきた時や同期と過ごして帰ってきた時、私はいつも虚しく感じてしまう。溜息を吐いて柔らかいマットの上に腰を降ろすと、ごろんと寝転がった。

「……」

別に家に帰ってやりたいことなんて何もなかった。ただ、自分1人で考えなきゃいけないことが多すぎてヨシノさんに頼れなかっただけで…シカマルのことも頑張るとは言ったけど、今奈良家で鉢合わせて普段通りでいるには正直時間も必要だし…

「……よし」

寝転んだまま両手を握りしめると、集中して印を組んだ。今度こそ…というか、私もいい加減変わらなきゃ。何もできないまま一生過ごす訳にはいかないし、ロンさんとも約束したし…それに強くなれば自信になる。シカマルに目を向けてもらえるきっかけにもなる。頭上にぼふんと現れたそれに恐る恐る目を向けると、そこにいたのは以前と変わらぬ光景だった。

「またおまえ!!」
「ローエン君お願い私頑張るから怒らないで…」

訂正、もう泣きそうだ。








「これじゃねえ……これも違う」

5代目に禁書室へ入る許可をなんとか貰えた俺は、1人影分身をコトメの家へ潜り込ませて本を漁っていた。光の国、コウの里。そんな言葉さえもほとんど見つからないうちに棚の半分に目を通した所で頭を掻いてめんどくせーと呟く。結局ここでもなんも見つからないんじゃ調べようもねぇ…つか、なんでこんなに資料がないんだよ。

溜息を吐き棚にガンと八つ当たりすると、その拍子に落ちてきた"修羅の歴史"という薄っぺらい資料にちらりと目を向けて、そういえば、と小さく眉を寄せた。修羅…といやあ、忍殺しで有名だった国…だよな…。関係あるかどうかは分からないが半ばヤケクソになった俺はとりあえず読んで見るかと、ぱらぱら紙を捲っていた。

女が大半を占め、身体の外部や内部を激しく損傷しても完全に治すことのできる忍だけが住む修羅の国に、血の汚れた外部の忍が紛れ込む。

血の汚れた外部の忍によって、修羅の国に他にはない力が産まれた。それは全て身体の一部に関係する術であり、その中の1つはその身体を持つ人間を守る為に特化された術だった。

しかし修羅の国では、汚れた血と純粋な血とに分かれて小さな派閥が起こる。

その小さな派閥は時を重ねるにつれて大きくなり、事件の引き金となったとある"神"を巡って修羅では内戦が勃発。

とある"神"って…なんだ…?

ぱらりと次の紙を捲るがその続きは書いておらず、顎に手を当てて眉間の皺を深くさせた。"汚れた血"と"純粋な血"、それによって起こった"派閥"、"神"…。何か頭に引っかかる気がしてふと思いついたのが"神獣"だった。神なんて大層なモンを巡って起こった戦争なんて恐らく人間じゃないだろう。人間だったらその"神"と名乗る奴が国を統べてもおかしくない。ということは、これは光の国に関係してると見て間違いないよな…

待てよ、女が大半を占めるってなんかどっかで…

ピン、と弾けたように過去の出来事が頭を駆け巡る。以前ハヤさんとアオハンキノコを取ってくるという任務の後、書物庫の整理をしていた時に見つけた可笑しな絵本。

あるむらにすむほとんどのひとたちは、みんなおんなのこでした。そのなかでうまれてくるおとこのこは、みんなからかわいがられていました。そのむらのおとこのこたちはむらいがいのおんなのことけっこんすることができましたが、おんなのこたちはむらのなかのおとこのことしかけっこんすることができませんでした。それがむらの"きまり"だったのです。

「…ちょっと待てよ」

修羅の国は女が大半を占める国、対して光の国は女が貴重とされてたんだったな…"血の汚れた"ってのが修羅じゃない他の国の忍のことだったら…純血がなくなったことで違う能力が生まれてきても何もおかしくない…

その中の1つはその身体を持つ人間を守る為に特化された術だった

「……」

とりあえずあの絵本をもう1度見るのが先か…資料を本の間に入れて部屋の鍵をかけ直すと、その場を急いで離れて書物庫へ向かった。

2014.11.07

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