知っていた、温もりの筈

「お腹苦しい…」
「この後甘栗甘行く?」
「ヴェッ!?チョウジ、まだ食べるの…?食べ過ぎで入院してもしらないよ…」

焼肉Qを出て1発目にチョウジが言った言葉である。1人で何人前食べたと思ってるんだ…最早焼肉Qの営業妨害。まあお金はきちんと払ったから営業妨害じゃないと言えばそうなんだけど…相変わらず過ぎて、というか前よりも食べる量増えてない?引き気味で「もう私お腹に入らないからまた今度行こう」と言えば、物足りないような顔でうんって返された。絶対家帰ってお菓子食べるパターンだよこれ…

「あ…そうだ。私シカマルのとこ寄って帰るから」
「え?あ、うん。そっか、コトメどっちにしろ家隣だもんね」
「そうそう、帰るようなもん!じゃ、チョウジ、焼肉ご馳走様!」

手を振ってチョウジと別れると、そのまま奈良家へ駆け出した。私が食べた分もチョウジが払ってくれてラッキーとは思ったけど、チョウジが食べたら10分の1にも満たない量なんて奢った気にもなれないんじゃないかな…っていうか、シカマルが私の中忍昇格のお祝いの為にプレゼントを"わざわざ"選んでくれていたとは。誰だお前彼氏か!とは思ったけど、虚しくなって言葉にするのはやめた。

いいんだ。私は振り向いてもらえるように頑張るんだから!決意新たに駆け出して5分後、漫画のようにベタすぎる小石につまづいたのはここだけの秘密だ。








「コトメちゃん!!」

地味に膝を擦りむきながら奈良家に顔を出すと、布団を取り込むヨシノさんの姿を目に映した。私に気付き目をまん丸にしながら駆け寄ってきたヨシノさんは、ばさっと掛け布団を落としたことに目もくれず私の両肩をがっしと掴んでいる。

第4次忍界大戦の時、私は木の葉の里を守る要因としてイルカ先生含む護衛班に配属されていた。全てが片付き、終戦後に帰ってきたぼろぼろのナルトやシカマル達を見て極限状態にあった自身の緊張は解けていったが、同じように待ち望んでいたシカクさんの姿はなかった。

「連合本部丸ごと潰されて…オヤジの遺体は残ってなかった」

それをシカマルの口から聞かされたヨシノさんは、覚悟はしていたのか気丈を振る舞ってはいたが、誰もいない家の中でシカクさんの遺影を前に泣いていたのを見たことがあった。遊びに来たのに誰も出てこないなーと思いつつ、窓から家の中を覗いたのがきっかけである。私は既に泣き腫らしていたはずなのにそれを見てまた泣いて、ヨシノさんに見つかって、2人で泣き腫らした訳だ。それからは毎日のように奈良家へ入り浸っていたから(元々入り浸ってたけど)、数日ここに顔を出さなかいだけでだいぶ久しぶりに感じる。

「最近顔見せなかったから心配してたのよ!シカマルに聞いても心配しすぎだ、大丈夫だっての、しか言ってくれないし……何かあったの?!」
「い、いいえ!!?あの、ちょっと色々忙しくて…!!すみません!!」

がくがくと肩を揺さぶられるままに答えると、やっと安心したのかほっと息を吐き出したヨシノさんに私も安堵する。焼肉が固形で戻ってきそう……ま、まさか入院してたなんて言ったら経緯を根掘り葉掘り聞かれそうだ。それはなんかいろんな意味でマズイ気がする…。あれ?でも待てよ。ヨシノさんって私が産まれた時すぐ近くに住んでたって昔言ってたような…私の両親が亡くなったから面倒見始めたって…

ふと疑問を浮かべているとすくっと立ち上がったヨシノさんが私の手を掴む。甘栗甘の新作団子があるから一緒に食べましょうなんて嬉しそうな声を聞きながら、もしかしたらヨシノさんは私の過去をずっと知っていたのかもしれないと思った。何がどうなって私の面倒を見てくれていたのか、見守ってくれていたのかは分からないが、もうシカマルの時みたいに「過去を秘密にされている」という不快感は微塵も感じなかった。

「…って、コトメちゃんなんで足擦りむいてるの?!」
「あ…こ、これはえっと、ここに来る時慌てすぎて転けた、というか…あはは…なんかごめんなさい…あとお団子食べれるか心配です…」

2014.11.03

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