血継限界 "紫焔眼"

病院からウミを連れ出し、着いた先で寝そべって面を外したその顔付きは、昔よりもずっと大人びていた。女の成長は早いとも言うし、幼い頃から見てきた女の子だから何度もそう感じることはあったが、20歳を超えてからはもっと早いように感じた。昔は髪の毛も短かった。目付きもどちらかというと悪く体型も幼児型。見た目から言えば、顔の整った少年みたいだった。‥のに。背中まで伸びた栗色の髪に少しだけ穏やかになった赤い瞳、白い肌に生える長い睫毛とふっくらした唇。体付きも随分と女性らしくなった。まあ後半部分は変態だと言われかねないので自分の心に閉まっておくことにするが、とにかく戦いの渦中に身を置きながら、綺麗になったもんだなと思わずにはいられなかった。

ウミから受け取ったイヌのキーホルダーを自分のポーチに付けると、イヌの首輪に付いた鈴が乾いた音を立てる。これをつけてて任務に支障はなかったのかと聞きたかったが、わざわざ向こうにいた頃の事を思い出させることはないかと話題を変えることにした。

「ご飯まだなんでしょ?俺も今日は任務終わりだから夕飯一緒にどう?折角久しぶりに帰ってきたんだし」
「あんまりお腹減ってないんです」
「どうせ兵糧丸とかばっかだったんでしょ。美味しそうな物でも見れば食欲もわくかもしれないから、とりあえず何食べたい?」
「……きつねうどん」
「減ってないって言う割に食べるつもりだよね」

真顔で大好物を口にするウミに苦笑いすると、商店街にある専門店を目指すことにしてその場から立ち上がった。が、今だ立ち上がる気配のないウミに視線を向ける。

「この格好では行けませんからどうぞお1人で」
「じゃあ着替えておいでよ、ここで待ってるから。それとも一緒に行ってあげようか?」
「私、そんなに子供じゃないです。今日はいいですから…1人にさせてください」

むくりと起き上がって面を付け直したウミはそうぽつりと告げて顔を伏せた。忍としての役目を終えて帰ってくる彼女は、いつもより一段と小さく見える。

こういう時のウミは、そっとしといてやるのが一番いいと、結局またその場に腰を降ろした俺はごろんと寝転んだ。何をしてやるわけでもなくこうやって一緒にいてあげるだけで、ウミは口に出さずとも安心してくれるのは昔からだ。

「わかった。けど俺も残る」
「相変わらず人の話し聞く気ないんですね‥はあ‥」
「なにぶつぶつ言ってんの。丸聞こえだよ」
「そのつもりで言ったんです」
「はいはい…お前もほんと、相変わらず可愛くないネ」

と、俺は呆れた顔をしながら口にするが、実際にはそんなこと思っちゃいない。出会った頃の幼いお前の悲しそうな赤い瞳をどうにかしてやりたくて、俺はひたすら仲良くしてくれるように頑張った。それは感情表現の乏しいウミが、一度だけ綻ばせたことのある笑顔があまりにも可愛かったからだ。なのに。‥あの時の笑顔が見たいと奮闘していた中、忍として実力をつけ出した彼女に"暗部入隊を推薦"する話が持ち上がった。

確かにウミは強かった。それは試験や任務の実績を見れば明らかだが、推薦された最大の理由は翡翠一族の血継限界特有の強さだろう。

翡翠一族の血継限界"紫焔眼"は、一族特有の赤い瞳を紫に変え、目に写した人間のチャクラや生態系の経絡器官・臓器・水分等、内側から焼き尽くしてしまう能力を持つ。その度合いは術者のチャクラの程度によるが、"炎に愛された一族"とも呼ばれる翡翠一族は、代々選ばれた人間が"神獣・朱雀"を身体に封印し共存することを契約付けられており、尾獣とも近い膨大なチャクラを持った朱雀を封印しているウミの力は凄まじかったのだ。

俺はウミが暗部に入隊することには猛反対だった。だが彼女は、自分は忍として力を発揮することしかできることがないと、14歳で暗部に入隊してしまったのだ。それからというもの、引き摺り込まれるように暗部での任務をこなすようになってからは、あの笑顔をもう一度見ることはできなかった。

2014.01.30

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