不思議なくノ一

「それは本当か?!生きているのか?!」
「…」
「何か話せたか?今そいつはどこにいる?」
「……あの、」
「どうした?」
「お兄ちゃんは私を……憎んでいました…」
「何故だ?お前と兄に面識はないだろうが」
「…お兄ちゃんは、一族の中でも腕の立つ忍だったのに、性別が男性というだけで一族から認められなかったそうです…だから、産まれてもいなかった女の私が一族の宝だと持て囃されていたのが…」
「逆恨みか…?…まさかお前を襲った忍というのは、」
「…お兄ちゃんです…」
「っ…」

脳裏に浮かぶのは蘇る兄だと名乗る男の顔。…ううん、兄だと名乗る、じゃない。あれは絶対に私のお兄ちゃんだ。だって全ての言動に納得できてしまうし、敖光さんの言葉もある。私を殺したい程に憎んでいる…か…正直何も身に覚えがないから私にとっては理不尽としか思えない。でも、お兄ちゃんの話しも客観的に考えると理不尽は理不尽だ。どんなにエリートでも里に認められない男性、どんなに力がなくとも里にとっては宝だと謳われる女性……お兄ちゃんに吹っ飛ばされた時の傷が痛むと同時に、以前ロンさんにやられた肩傷も疼き、思わず肩に掌を当てるといつの間にかほどかれていた髪の毛に手が触れた。‥あれ?私、なんで髪の毛下ろして…

思わず起き上がってばばばっと頭を触ると結っていたはずのポニーテールはなく、ついでにシカマルから貰った茜色の髪紐もなくなっていた。

「おい、急に起き上がるな!」
「あ、あれ?!私、髪紐は…?!」
「髪紐?運ばれてきた時にそんな物つけてなかったぞお前」
「ええっ!?嘘っ!どこで落として…!」
「それより何故お前の兄は生きていたんだ?何か言ってなかったか?」
「ど、どうしよう…!あれ、大事な物なのに…!」
「…後で誰かを探しに向かわせるから私の話を聞け!」
「ひぃっ!」

大きく声を放った綱手様に思わず悲鳴を漏らすと、こくこくと首を上下に動かして頷いた。私一応負傷者なのに…そんなに怒らないでくださいと眉を垂れさせると、突拍子もなく病室のドアが開く音が響いた。

「遅くなりましたあ〜」
「…セナ、こいつを頼む。力が入らないようで瞼も上がらないらしい。一時的なショックからきていると思うがな」
「ん〜…ねえ綱手様、この子日暮硯一族でしょ?青龍の子だよねえ?」
「!?」
「…そう簡単に口にするなお前は…封印の方も気になる。少し見てやってくれ」
「つ、綱手様!そこにいる人一体誰ですか!?なんで青龍のこと…!!」
「あ〜そっかあ、日暮硯コトメちゃんとは一応初めましてになるよねえ。私は深月セナっていうんだあ」
「み、深月セナ…さん?誰?」
「木の葉隠れの医療忍者だよお、あとねえ日暮硯コトメちゃんと同じコウの里出身〜」
「え、…ええええ!!?」
「力入らなくても吃驚すれば大きい声は出るんだねえ〜」
「…じゃあもしかして貴方も封印の…?!」
「コトメ、先に治療だ。口を閉じろ」

コウの里出身!?!

驚いた瞬間べしっとおでこを叩かれて上半身をベッドに埋めさせられた私は、徐に服やら包帯やらを剥ぎ取られている感覚に顔を顰めた。というか、腕のグローブも外されてない?!そう思うと同時に、深月セナさんから興味深々そうに声を上げた。

「うわあ〜、すっごい模様だねえ、左腕全部?まあ未熟児に青龍の封印するのは術式の大きさもそれなりに拡大するかあ」
「未熟児…?…なんで…そんなことまで…」

零した言葉は語尾が掠れていく。なんとか瞼を持ち上げようと躍起になっていると、ほんの少しの隙間からオレンジ色の髪の毛が見えた。

2014.06.07

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