669・フラベベ

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ふよふよと空に浮く青い花…もといフラベベは、私の周りを飛んではイーブイの周りを飛ぶ。物珍しそうにへ〜ふ〜ん〜と顔を見ては緩く笑ってひらひらひら。…なんだか私も楽しくなってきた。

「イーブイもそう思わない?」
「(主語が抜けてるぞ)」
「フラベベだよフラベベ!すごく楽しそうに私達の周り飛んでるじゃない?私も楽しくなってきちゃって!」

そしてそのままその場に腰を降ろすと、イーブイの小さな体を掴んで膝の上に乗せた。旅は始まったばかりですが、いきなり休憩してごめんなさい。でもこれも旅の醍醐味だと思うんですよイーブイさん。そんなに尻尾で攻撃しないでください。くすぐったい。

「フラベベはここで何してるの?」
「(お散歩!この辺みーんな綺麗なお花咲いてるでしょ?だからついお散歩したくなるの!)」
「分かるー!それに今日天気も良いもんね、絶好のお散歩日和!」
「(でしょ!初めて会ったのに気が合うね!ねえ名前なんて言うの?)」
「私?私はナマエだよ。よろしくねフラベベ」
「(ナマエ!覚えた!ナマエ!ねえなんでナマエは私の言葉が分かるの?)」
「さあ‥もう昔から。うーん、産まれた時からかもしれないし、んん‥分かんないや!」
「(そっか!面白いねナマエ!)」
「(‥適当かお前等)」

あああなんて可愛いの!!!名前覚えた、覚えた!なんて言いながらくるくる回るフラベベの姿はまるでお花畑のバレリーナだ。言う通り気も合いそうだし、この子私の仲間になったりしてくれないかな。…そもそも私と旅してくれたりするのかな。そこ、重要だよね。

「ねえフラベベ」
「(なあに?)」
「私と一緒に旅とかしてみたいと思う?」
「(え?旅?しないよ〜。私ここが好きだもん。ナマエのことは好きになれると思うけど)」
「そっか。じゃあしょうがないね」

ちぇっ、残念。そしてイーブイが尻尾で私を催促している。休憩はもういいだろ、と。声にも出してないのに分かる辺り、私とイーブイは良いパートナーだ。ほんの少ししか経ってないけど……まあ、しょうがないから行くかあ。もうちょっとフラベベダンスを見ていたかったけど。イーブイを地面に降ろすと、ゆっくり立ち上がって腕を伸ばした。

「(え?ナマエもう行くの?来たばっかなのに)」
「うん。これでも一応先急いでるんだ。ごめんね」
「(そっかあ。じゃあしょうがない。また遊びにきてね、私いつもここら辺で踊ってるから!)」
「ふふ、分かった、また来るね!」

たった数分だったけど、どうやら友達になれたらしい。イーブイは呆れているのか面倒くさそうに歩き出した。もっと愛想くらいあってもいいのに。手を振りながらそこから離れると、またイーブイの尻尾で攻撃された。だから、くすぐったいってば。








「ここが、ハクダンシティ…!」
「(やっと着いたか…)」

4番道路を真っ直ぐ歩く事約30分程だろうか、噴水のある綺麗な街中へと足を踏み入れた。辿り着いたと同時に、私とイーブイのお腹がぐうう…と鳴った。やっと何かにありつけるぞ!そう思って街を見渡してみると、色んな人が、色んなポケモンを連れていた。どこかでみたことのあるポケモン、初めてみるポケモン。なんだかとてもわくわくする。

「(…何を嬉しそうな顔してるんだ)」
「わくわくするじゃん!これからもっと楽しい事、待ってるかも…!」
「(…ハア…)」

イーブイの深い溜息も気にする事なく、私は意気揚々とまずポケモンセンターを探す為に歩き出した。…が、注意が散漫だった。右側から走ってきた人物に気付かなかったのだ。私よりも一回り以上も大きい、大人の男の人に。

「ぎゃ、!」
「あ、悪い、大丈夫か?」
「‥?」

…なんでだろう、聞いた事のある声と、感じた事のある雰囲気だ。地面に尻餅をついてしまった私に手を差し伸べてくれたその人は、変な水色のマフラーを巻いた、…確かに、知らない人、なのに。

2016.07.19


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