おさないゆびきり

3
「さーーて、これからどうしよっかなあ」

プラターヌ博士とソフィーさんに送り出されて、研究所から出た私はまた迷いのミアレシティへと足を踏み出した。いきなりジム戦‥なんて今の実力じゃあ敵わない。まだ私バトルしたことないし、勝手もよくわかってない。強くなってからじゃないと。

「じゃないと、イーブイも不安だもんね!」
「(少なくとも俺は自信がある。問題は俺とナマエの息が合うかだな)」
「私格下だね辛い‥」

どうやらイーブイには自信があるらしい。しかも相当。そういえば私、イーブイに出会う前のことよく知らないなあ。この顔面くっっそ可愛いモフモフ♂の自信あるっていうのは、私の知らない部分からきているのか‥いや自己満かも。歩くのが面倒くさくなったらしいイーブイが、考え事をしている私の肩へと飛び乗った。‥うぐぐ、重い‥。

「(とりあえず俺のこと調べてみろよ。貰った図鑑で色々わかるだろ)」
「そうだね‥あとイーブイ降りて。重い‥」
「(ナマエより軽い自覚はあるぞ)」
「体格の差!見てよ!」
「(だから俺の声にあんま反応すんなって)」

ぎっ!とイーブイを睨みつけると、ひひっといたずらっぽく笑って肩から飛び降りた。同時にもふっと足に纏わりつく尻尾。喧嘩はするが仲はいいのだ。私とイーブイは。

言われた通りにポケモン図鑑を取り出すと、近くのカフェのベンチに座ってイーブイにかざした。ピコンと音が鳴り、画面が揺らぐ。男の人の声でイーブイの説明が入ると、イーブイの画像、今使える技が浮かび上がった。

「えーっと、‥たいあたり、すなかけ、スピードスター、でんこうせっか。‥合ってる?」
「(へえ‥凄い性能だな。どうなってんだ?)」
「ってことは、合ってるんだ!スピードスターなんて使えるんだね。ふむふむ‥」

割と長いことイーブイとはいたけど、旅に出て分かることもあるもんだなと私はまじまじと図鑑を見つめる。これからもっとイーブイのこと知っていけるかな。なんだか嬉しくて笑うと、ぷにぷにもふもふの何かが頬っぺたを叩いた。‥イーブイのお手手だ。

「なによイーブイ」
「(俺は旅に出るからには最強になるからな)」
「知ってるよ。何回聞いたと思ってるの、耳にタコできてるよ」
「(できてねえよ。だからナマエ、お前も絶対最強になるんだ。俺とお前はこの世界で最強になる。約束しろ。絶対だ)」
「約束したじゃん。指切りもしたじゃん。大丈夫だよ。もう、心配性だなあ」

イーブイの顔は至って真面目だ。もちろん、私だって強くなるつもりだ。でも、なんでイーブイがこんなに最強にこだわっているのかは正直分からないとこがある。まあ、やっぱ男の子だからかなって思うし、家族同然のこの子の夢なら叶えてあげたい親心があるし。イーブイの言葉に何度も頷くと、ちょっぴり不安そうなイーブイの顔があった。

「(‥)」
「なに?」
「(‥なんでもねえよ。さっさと行くぞ)」
「?‥って、どこに行くの?」

決まってもない行き先へてしてしと歩き出したイーブイ。たまーに、何を考えてるのか分からない時がある。これからもっと分かるようになるかな。分かり合えるようになるかな。

「‥難しい」

イーブイの後ろを急いで追いかける。その途中、ポケギアを開いてタウンマップを確認したが、やはり私はどうも地図という道具を使いこなせないらしい。








「"4番通り"‥だって。で、ハクダンシティがこの先にある、と」
「(それ5分前くらいに同じようなこと言ったよな俺)」

うるさいなあもー!確かに言われた。言われたよ!「ここから4番通りに入るとハクダンシティって所に行ける」ってね。いいじゃん復唱したって。ドヤ顔で言われたのが嫌だったからあたかも自分で道を切り開いたように言っただけじゃん!

さくさく花畑を進んでいくと、色んな所でガサゴソガサゴソ。そしてポケモン探しに追われるトレーナーが1人、2人‥特に虫取り網持った男の子なんて血眼だ。そりゃポケモンも寄ってこないよね、捕まえられたらそのまま食べられそうだもん。

「(わっ)」

そんなことをぼんやり考えながら歩いていると、青い花が目の前に現れたことで慌てて足を止めた。小さい青い花の上に‥‥何か妖精が乗っている。

「(ポケモンだろ。どう見ても妖精じゃねえだろ)」
「少なくても似通ってると思うよ。っていうか心を読むな。‥で、貴女は?」
「(フラベベ!)」
「フラベベ?ってこういう時に図鑑開けばいいのか」
「(‥あ、あれ?私の話す言葉、分かるの‥?)」
「え。あ、うん、いや、えーっと」
「(いやポケモンにならバレても大丈夫だろ)」

2016.04.21


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