なにいろがすき?

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イーブイの後ろをついていくこと15分程。目の前に聳える建物と、モンスターボールのオブジェが迎えてくれた。どうやらここが目的のミアレ研究所らしい。悔しいがほんとに地図が読めたのか‥ドヤ顔するな。

ちょっと緊張するなあ。口をぎゅむぎゅむと動かして、さて1歩と研究所に足を踏み入れた。そして横から颯爽となんてことないような顔を浮かべたイーブイが、私より先に研究所のドアをてしてし、と叩いていた。

「イーブイ、ちょっっと落ち着きなさい」
「(いやむしろナマエが落ち着けよ。顔酷いぞ)」
「知らない所に入るのは普通緊張するでしょ?」
「あら、こんにちは!研究所にようこそ!」
「アッ」

変な声が出た。どうやらイーブイのてしてしノックに気付いて開けてくれたらしい。白衣を着て眼鏡をかけた女の人が出迎えてくれた。とても頭の良さそうな人だ。‥この人が博士かもしれない。そう考えて姿勢を正してみる。こらイーブイ、なぜ研究所へ勝手に入っていく。

「あら?‥あの子は貴女のイーブイ?」
「すすみません!イーブイ!戻ってきなさい!あ、私はナマエと申します!!ラーグンタウンから来ました!!イーブイ!!」
「あらあら、いいのよ、気にしないで。私はソフィー。博士の助手をしているの。よろしくね」
「あ、えっと、ソフィーさんが博士ではない‥?」
「博士は男の人よ。あ、」

奥から見えた人の影。あの人かなあと思ったのも束の間、私のイーブイを見て目を光り輝かせたその人はまるで磁石のようにくっついてきた。

「マーベラス!!!君はどこからきたイーブイかな?!珍しい"瞳"の色だねえ!!」
「博士‥」
「(おいやめろ!ベタベタすんな!!ウゼエ!!このクソ野郎!!)」

博士、きっとそのイーブイの可愛らしい風貌からはにつかわしくない暴言を吐かれていることに気付いてないよね‥知らぬが仏‥。まあ確かに、イーブイの右の瞳は通常の黒色だが、左の瞳は綺麗な銀色をしている。が、その瞳を見て異常に興奮している男の人に私は後退りした。マーベラスって何。‥っていうかソフィーさん、ボソッと博士って言わなかった‥?

「ナマエちゃん、あの人がプラターヌ博士よ。ごめんね、博士いつもこんな感じだから」
「ひええ‥」
「プラターヌ博士、お客様です」
「やあこんにちは!僕はプラターヌ!」

今聞いたよ。突っ込みそうになった言葉を飲み込むと、放送禁止用語を乱発し出したイーブイに待ったをかけようと駆け寄った。そして駆け寄ってイーブイへと手を伸ばした瞬間に、ガリリ、となんとも生々しい音が聞こえたのである。なるほど、プラターヌ博士とやらが噛まれている。イーブイに。

「こ‥‥こらーー!!イーブイ!!!(気持ちは分かるけど!!!!)」








「ごめんなさいね。博士があんなに急にベタベタ触るからいけないんですよ。イーブイが驚くのも無理はないわ」
「いやあ、すまないなイーブイ」

あの後、応接室のような所に通され、イーブイに噛まれた痕に絆創膏を貼ったプラターヌ博士は、何故だかとても嬉しそうだ。イーブイは私の膝の上で威嚇をしている。どうやら嫌いな奴のカテゴリーにプラターヌ博士が入ってしまったようだ。まあしょうがないとは思うけど、本気で噛むのはやめてあげて。ちなみにイーブイは噛み付くなんて覚えてはいない。

「改めまして。僕はプラターヌ。ここでポケモンの研究をしているんだ」
「ナマエです。‥あの、イーブイがすみません」
「いいのよ。博士が悪いんだから」

ですよね。心の中で頷くと、安心させるようにイーブイの背中を撫でた。警戒は解けない気がする。プラターヌ博士、その「もう1回抱っこさせて」オーラを止めてください。イーブイがすごい怖い。

「それで、ナマエちゃんは何をしに研究所へ?‥もしかして新人トレーナーかな?」
「はい。それで、旅をする前にまずミアレシティの研究所に行きなさいって言われて‥」
「そうだったのか。ソフィー、今って確か‥」
「今日は検診なので、どの子もここには‥」
「だよなあ‥困ったな」
「?」
「いや実はね、新人トレーナーには新人トレーナー用のポケモンをプレゼントすることになっているんだけど、丁度今日は皆定期検診でね。ポケモンセンターで預かってもらっているんだよ」

ああ、成る程。ポケモンが貰えるのか。とは言え、私にはもうイーブイもいるし、心配はご無用だ。ねえ、なんてイーブイの顔を覗き見れば、勝手にしろ、と欠伸をしている。イーブイも仲間が増えたら、嬉しいかな‥とは考えてみたものの、とりあえず今は早く旅をしたい。色んなことに挑戦してみたい。

「私にはイーブイがいるから大丈夫です」
「‥成る程、君達は仲が良いんだね。だったらこれだけ渡しておこうかな」
「渡す?」

そう言って奥から何かをゴソゴソ取り出して、戻ってきたと思ったら私に何かを差し出した。赤い板のような、不思議な小さいノートのような‥。

「それはポケモン図鑑だよ。分からないことがあったらポケモンにかざしてみてみるといい。色々と教えてくれるよ」
「へー‥ありがとうございます」
「ナマエ!イーブイ!君達の旅が素晴らしいものであることを!祈ってるからね!」

うっわいきなり呼び捨てにされた‥妙な不快感はあるものの、とりあえず成る程研究所に行けっていうのはこういうことだったのかと、ポケモン図鑑をじっと見つめた。便利な機械があるもんだなあ‥。ドヤ立っている博士が作った物だったら‥そしたらこの人凄い人じゃん‥(そもそも博士ってだけで凄いハズなんだけど)。

「私からはモンスターボールをプレゼントよ。ナマエちゃん、色んなことあると思うけど、しっかり頑張ってね!」

にこやかに笑ったソフィーさんに、私は小さく、しっかりと頷いた。

2016.04.07


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