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「繋心ー、何飲むー?」
「ビールだろ」

炬燵でぬくぬくと暖を取る繋心は一言そう言い終わると、首だけをこちらにぐるりと向けてじっとこっちを見つめ出した。‥どうした、寂しいのか可愛い奴め。

年末と年始、一緒にいることができるのは初めてだ。いつもお互い飲み会があったり地元に帰ったり仕事があったり。今年はそういうのが珍しく全くなくて、私のお家でお泊まり飲み会でもします?という声に繋心が嬉しそうに乗ってくれたのだ。あー、言ってみてよかったとビールとつまみを出しながらついつい笑ってしまった。

「何がおかしい」
「一緒に過ごせるのが嬉しいだけだよん」
「まあ、一晩一緒とか初めてだもんな」
「一晩一緒とか、繋心のえっち〜」
「うるせー、早く飲むぞ」

ほんのり頬を赤くする彼は本当にからかい甲斐があるなあとくすくすと緩む口。そうして隣に腰を下ろすと、さも当然のように腰に回った繋心の腕。プルタブをぷしゅ、と空けたそこから香るビールの匂い。連想させるのはタバコの匂いと繋心の匂いだった。うわ、ちょっと待って私変態くさい。

「今年は仕事落ち着いてたな」
「もう2年目だもん。出来るようになったの」
「前はドタバタしてたからな」
「心に余裕が出来たの!」
「これからは教えることも増えて大変じゃねえの」
「もう先輩だしね」
「先輩ね‥」
「なによ」

カチンと軽く乾杯をした後、柿の種をぱりぱりと口に入れてビールで流し込んで、後はもうたわいもない話しでひっそりと盛り上がる。目の前では毎年流れる特番で爆笑が起こっているけれど、私達の間で爆笑という爆笑は起こらなかった。どちらかがくすりと笑って、どちらかがそれに釣られる。そんな空気感。好きだなあ。

「今年はどんな年にしたい?」

突然の真面目くさい質問に、私はビールを流し込んでごくりと飲み込んだ。‥どんな年にしたい?願望はある。もっと仕事頑張って昇給して、自分を磨いて良い女になって、そして今年も繋心の横にいることができればもうそれで満足。‥嘘、全然満足じゃない。今年も、来年も再来年もずっと繋心の横に居たい。それはもうずっと考えていたことだ。でも私からプロポーズみたいなことって、‥なんだかなあ。そりゃあ繋心の方から言ってほしいに決まってるから。

「繋心は?」
「質問してんの俺なんだけど」
「聞きたいなら自分からでしょー」
「ずりー」
「あ、このネタ去年もやってた」

ふふふなんて笑い声を微かに上げながらテレビに視線を戻す。変わり映えしないネタだと思いながらも笑ってしまうんだから、芸人ってやっぱり凄いんだなあと柿の種をぱりぱり。

「どんな年にしたいか、聞きたいか?」
「聞いてほしいの?」
「そりゃお前が聞いてくんねーと意味ねえし」
「ほう」
「今年は人生で1番大事な年にするつもりでな」
「?すごい年になりそうだね」
「‥ナマエにもうちょい余裕できたらでいいから」
「ん?」
「同棲でもどうですかね」
「ぐふっ」
「きったね!」

ほんのり赤くなった顔で、僅かにガチッと固まった口から出た言葉。いや、柿の種出たのはそっちのせいなんだけど。だってそれって、あれじゃん。さっきまでほぼ私が考えてたこと言ってるじゃん。一緒にいたいってことでしょ、つまりそれ、

「‥‥プロポーズ?」
「じゃねえよまだ」

まだ。ということはそのうち?熱を纏ってきた顔にキンキンに冷たいビールを当てて、じいっとこちらを見ている繋心から目を逸らす。テレビではお尻を叩かれて半泣きの芸人が映っていたけど、なんで叩かれていたのかという理由なんてもう全く見てないから分からない。彼のせいで当然頭に入ってこないからだ。

「ひ、‥広い所、引っ越ししなきゃね‥」
「あと俺とお前の仕事場の中間地点にいい物件あるといいよな。ちょっと目星つけてんだけど」
「も、もう!?」
「去年から考えてたから」

珍しく手が早い繋心に目を丸くして驚いたけど、彼はもしかしたら私がずっと一緒にいたいと思う前から一緒にいたいと考えていてくれたのかもしれない。なにそれ、そんなのめちゃくちゃ嬉しいじゃん。ゆっくりと繋心の肩に頭を乗せて、もう余裕あるし準備万端なんだけどなあとぼそりと零してみる。へえ、なんて腰に手を回していた手が強くなって、繋心の香りが強くなった。じゃあ来年はもう、当たり前のように一緒ということか。‥やばいね、それ超幸せだ。

2018.02.01

まこ様リクエストで年末に2人でのんびりする話しでした。素敵なフリリクありがとうございました!