チャイムがなって早1分。私は意気揚々ととある場所へと向かうために廊下を歩いていた。
『山南せんせー!』
「おや。またですか?」
『えへへ、またです!』
4時間目をサボタージュするためにここ、保健室を訪れていた。理由は“体調不良”であるのはまあ、周知の事実。
「音楽の時間でしたよね。音痴というわけでもないのに」
『あれは先生がいやなんですー』
音楽自体は好き。でも担当の先生である伊東先生がどうも生理的に受け付けない。だからこうして保健室へと逃げ込んでる。
まあ、それもあるんだけど他にも大きな理由がある。
それはこの養護教諭である山南先生。
優しげな笑みを浮かべて頭を撫でてくれる山南先生が大好きで、私はどうしても彼に甘えてしまう。もちろんその優しさの中にある厳しさも大好き。
『それに先生!きちんと体調不良ですよ!』
「体調不良の方は片手にお弁当を持って此処にはきませんよ」
ニコリと微笑みメガネのブリッジを押し上げる山南先生。
『体調不良ですもん!』
「はいはい、わかりましたよ」
そう言ってちゃんと椅子を用意してくれる山南先生。
『今日は天気がいいですね!』
「そうですね」
『日向ぼっことかいいですよね!』
「気持ちがいいですね」
『ですよね!』
山南先生はきっと聞き上手なんだと思う。どんなにつまらないことを話しても山南先生と話せばそれは瞬く間に楽しいものに変わってしまうから。
「なにかお飲みになりますか?」
『緑茶がいいです!お弁当、今日おにぎりなので!』
「おにぎりですか。それはいいですね」
『先生はおにぎりの具、何が好きですか?私はちなみに昆布が好きです!』
「昆布が好きなのですか。意外でしたね」
『そうですか?』
「ツナマヨ、とかいうのかと」
『そんなイメージなんですか?』
「すみません」
『で、先生は?』
「梅、でしょうか。昆布も好きですよ」
『本当ですか!?嬉しいなぁ』
共通点があるだけで嬉しくなる。ほんの些細なことで舞い上がってしまう。
これは病気、体調不良なんだと思う。
恋の病、なんちゃって。
体調不良という名のサボリ
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