『わ、真っ暗』
「……」
時刻は8時30分が過ぎた頃。学校ではすべての部活動が終わり生徒も先生もほとんどが帰宅を終えた時間。
いつもならこの時間は最近買い換えたあの大きなテレビでバラエティー番組を見ているわけだけれど。今日は違った。
明日提出の課題がある。これを幼馴染である丞くんとやろうという話になったのが今日の昼休み。そして夜に丞くんの部屋に行き、いつも学校へと持って行っているリュックの中身を漁るも入っていない課題のプリント。
もし課題の提出が2時間目ならば1時間目の永倉先生の数学を犠牲にすればなんとかなる。でもそうじゃなくて朝のHRの時間に集めるというのだから困ったもので。
悩んだ末に出した答えが、学校に忍び込むというもの。
普段優等生である丞くんは苦い顔をして渋ったけれど必死に頼み込んだかいあってついてきてくれることに。それどころか丞くんは、
「……一階の男子更衣室の窓は四六時中開いている。そこに行こう」
とまで言い出して。もうこの子誰。
そんなわけで夜の学校に忍び込んだ私と丞くん。夜の学校に忍び込むなんて初めての経験で悪いことだと分かっていながらも少しワクワクしている私がいる。
丞くんの言うとおり一階にある男子更衣室の窓は開いていて、少し男臭い更衣室へと侵入しそこから教室を目指した。
先頭を行くのは丞くん。すごい速さでずんずん進んでく。まるで目の前がしっかり見えてるように。対する私は未だにこの暗さに目が慣れずになんとか見えている丞くんの後ろをついて行っている感じ。
足音を立てず廊下を歩く丞くんはまるで忍者のようで。
「階段のぼるぞ」
『う、うん……』
廊下でさえわたわたしていた私が階段なんて登れるはずもなくて。前をゆく丞くんの袖をがしりと掴む。
それに気づいた丞くんは歩みを止めてこちらを振り向いた、気がした。
すると丞くんは袖から私の手をはがし、私の手を自らの手に絡ませた。
『す、すっ!』
「行くぞ」
『う、うん……っ』
空気はひんやりとしているはずなのに繋がれたソコはとても熱くてじっとりしてて、もう何も考えられなくて気がつけばもう教室にたどり着いていた。
『あった』
「さっさと帰るぞ。見回りの先生が来てもおかしくない」
『うん』
さっきとは違ってどちらともなく伸ばされた手、そして触れ合う指先と手のひら。私が少し力を入れれば、キュッと返される。
忘れ物の冒険
また忘れ物をしちゃおうかと思ったのは内緒。
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