この学校の美術室の窓はグラウンド側に付いていて、放課後になると窓からはグラウンドを使う運動部の活動を眺めることができる。夏真っ盛りの今、どの部活も長い陽を最大限利用して部活動を行っている。
そんな美術室に入り浸る私はもちろん美術部。特に、この窓際にある席が私の特等席になっている。それはもう周知の事実らしく、美術部の部員が部活中にこの席に座ることはまずない。
この日も私は特等席で真っ白な画用紙を広げた。外は天気がよく、運動部の声が聞こえてくる。眺めればそこには赤いユニフォーム。
『今日も頑張ってるんだ』
あのユニフォームはこの学校でも有名なアメフト部のもの。今ではかなり有名なったが、昔は無名も無名の新設チームだった。それでも彼が頑張ったからこうして有名になったのだと私は思う。
鉛筆をかざしてみる。ビジョンが浮かぶ。私は真っ白な画用紙に鉛筆を走らせた。
気がつけばもう夕日が沈みそうで、橙色が目に眩しい時間になっていた。
『あ……』
広いグラウンドを占領しているアメフト部の赤。でも目を向けたそこに赤は一つしかなかった。
『あれ?』
いつもならもっと遅くまで練習をしているはずなのに。こんな早い時間帯に切り上げることなんて今までなくて驚いた。
でも、
『理想のグラウンドになった、かも』
私がずっと描きたいと思っていたもの。広いグラウンドにある一つの赤とそして金。
みんなが口を揃えて言う、悪魔だと。たしかに彼はひどい人かもしれない。
でも、ここの特等席から見た彼は悪魔なんかとはかけ離れた存在に見える。真摯にスポーツに打ち込む姿は誰よりも輝いて見える。
そんな彼を、私は描きたかった。
するすると滑る筆は薄く橙を重ねる。
『よし、』
ここから見えるグラウンドの景色と、それを織り成す橙と赤と金色。
私は筆を置いて、伸びをした。そして一つ息を吐いて、もう一度窓の外を眺めた。
『っ!』
眺めた外には一人立つ赤色。しかしその赤色の持つ双眸はこちらを向いている。
私の双眸と彼の双眸が交じりあう。すると彼はニヤリと笑う。
『気づいてたんだ……』
私は彼の笑みを、脳内にしっかりとかき込んで美術室をあとにした
夕暮れと君を描く
prev / next