四木と中学生臨也

四木の重みによって沈む黒い革張りのソファに、臨也は上半身だけを預け、下半身は床にぺたりと座り込んでいた。視線だけで四木を見つめながら、唇の端を舐める臨也はなんとも艶やかであった。しかし四木の瞳には、それが幼稚な子供のお遊びにしか見えなかったのである。

「四木さん、今日は触ってくださらないんですか」
「いつも私ががっついているかのように言うのは止めていただけませんかねえ。折原さん」
「おや、すみません。そういうつもりではなかったのですが」

臨也は少しばかりおどけたように言いながら、肩を竦めてみせた。そうして自らの頬の下に敷いていた腕を四木の膝へと伸ばす。指先が足に触れるよりも早く、四木はその腕を掴むと臨也の身体を引き上げた。臨也は少し驚いたように瞬きをすると、にんまりと笑みを濃くした。

「さっきはああおっしゃっていたのに、随分早い心変わりで」

両腕を四木の背中に回し、首筋に舌を這わせる。先程からずっと、臨也の行為は四木を煽ろうとしているものばかりであった。
そんなことは始めから四木にはお見通しだったし、臨也とてわざとそれを悟らせようとしての大振りな動きだった。しかし、自らの試みが上手く行ったことに満足し、安堵から溢れた隙を四木が優しく見逃してやるわけもなかった。

「調子に乗るなよ、餓鬼が」

気付けば臨也の両手を一纏めにして、ソファに押し倒していた。無意識に口角が上がる。そんな四木を目前にすると、臨也の口元からさあっと笑みが消えた。いつもなら優しく押し倒して、戯れるような愛撫をする程度で臨也は満足していた。四木としても学生に真剣になるほど困ってはいなかったし、大人ぶって誘惑して、四木が軽く相手をするだけで喜んでいるような子供に真剣になる必要もなかった。臨也と四木は情報という生きた商品を挟んでの商売相手であると共に、臨也の背伸びした遊びに付き合ってやっている関係でしかなかったのだから。

「、やだなあ四木さん。怖い顔しちゃって、そんなに焦らなくたって」

少しひきつった声でそう紡ぐ男は、紛れもなく学生のそれであった。情報屋という仮面がべりべりと剥がれ落ちれば、そこにいるのはただの子供だった。
四木は無言のまま、先程自らがされたように臨也の首筋を舐め上げた。びくり、ちいさく肩が跳ねたかと思うと、いつもより小さく縮こまる。わざわざ上半身をはだけさせて愛撫をしていては、いつもと余り代わり映えもしないし時間の無駄だと考えた四木は、迷うことなく臨也の下半身へと手を伸ばした。カチャ、とベルトが冷たい音を奏でた瞬間、いつもの饒舌っぷりはどうしたのかというくらい固まっていた臨也がようやく抵抗を示した。

「っや、し、四木さんっ」
「おや折原さん、どうかなさいましたか」

何事もないかのように平然と返答する四木の手は、休むことはない。

「ど、どうって…っひ」
「ああ、冷たかったですか?すみません」
「っあ、ちがっ」

ベルトを外し終えた四木の指が臨也のズボンを下ろしたことにより、部屋の冷たい空気が直に肌に触れ、臨也は自分の肌がぞわりと粟立ったのを感じた。そうして、今まで誰にも晒したことのない自分の下半身が、布一枚を挟んで四木の前にさらけ出されているのかと思うと、羞恥で顔中が熱くなる。両手に力を込めても、足をばたつかせようとしても、馬乗りになっている四木の前では無意味なことだった。

「折原さんくらいになれば、流石にもう何度も経験済みなんでしょうねえ。私で満足していただけるか…」

四木が本心でそう思っていたかといえば、勿論そんなはずはなかった。しかしそれでも、目の前の大人ぶった子供が恐怖と焦りを露にしてゆくのはとても心地がよかったのだ。

「し、きさ…」
「ん?どうかしましたか、折原さん」
「ごめ、なさ…もう、勘弁してください…」

そう告げた臨也の頬は火照っており、瞳にはうっすらと涙の膜が張っていた。
それを見た瞬間、ああようやく自分が餓鬼だと認めたか、と思うと同時に、四木の内側がかあっと熱くなるのを感じた。それが一体何であるのか四木は一瞬戸惑ったが、冷静に考えれば答えは自ずと出てきた。
(俺がこの餓鬼に欲情したってのか)
それはあまり認めたくはない事実であったが、まあ事実なのだから仕方ないと四木は考えた。そうして、目の前の臨也の顎をぐいと掴むと、臨也がいつも四木に乞うのとは違う、噛みつくようなキスを送ってやった。

先程の発言で俺が退くだろうと思っていたらしい臨也は、驚きを隠せずに目を開いたままだ。ついさっきまで張っていた涙の膜は、臨也が息苦しさから目を細めたことにより、滴となって溢れ落ちた。
ゆっくりと唇を離せば、は、と熱い息を吐き出す臨也の唇。四木はそれを見ると、ようやく臨也の上から退いた。それにより自由になった身体を動かして起き上がり、まだ何も言えずにいる臨也を前にして、四木はくるりと背を向けた。

「続きがしてほしくなったら、いつでもいらっしゃって構いませんよ」

少しの沈黙の後に、カチャカチャというベルトを直す音が聞こえたかと思うと、臨也が足早に立ち去っていくのが分かった。がちゃり、学ランに身を包んだ臨也の姿がドアの隙間に吸い込まれていくのを背中で見つめていると、少しばかり落ち着いたらしい彼の言葉が耳に届いた。

「……また、お伺いします」

ドアが閉まりきって静寂が訪れた部屋に存在するのは、四木一人であった。
デスクに凭れかかるようにして立っていた四木は、ちいさく笑い声を漏らすと呟いた。

「お待ちしてますよ、折原さん」

――――
タイトル→mutti
臨也の初めては四木さんだよねって話
nkrちゃんに捧ぐ
(100802)

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -