緑赤緑
これの続きっぽいです

なまあたたかい。なまぬるい。似たような字を使うこんな言葉が、俺を支配していた。
今の俺たちの関係はまるでそれだ。どっちつかず、幸せなのか不幸せなのかも分からない状態。楽しいのかつまらないのか、もう麻痺した感覚では何も分からない。
無様だなあと鼻で笑う。小さく洩れた息を補充するようにおおきく深呼吸。別に気分は晴れなかった。
見上げる天井は白い。何も考えずに、ただ見上げていた。ぼうっとしていれば、このまま白に溶けてしまえるんじゃないか、なんて馬鹿なことを考える。
そういうことにはこんなちんけな天井じゃなくて、もっと深い黒に吸い込まれるような星空の下とかで浸るべきだ。

ああだめだ。またはじめに戻ってしまった。これでは意味がない。
どうしても繋がりを求めてしまうのだ。いつも、いつでも、脳の片隅で、胸の真ん中で。どっちつかずっていうのは良い表現だと思ったけれど、そんなことないのかもしれない。だって、結局俺は離れられないのだ。あいつはどうだか知らないけど。考えてること顔に出ねえし。

「あーあ、損な役回り」

今や最強と言える地位まで登り詰めたあいつの幼なじみ、なんてどう考えたって損だろう。周りには比較されるし、あいつには負けてばっかりだし。
それでも、嫌じゃない。そこが不思議なところだ。まあ多分、俺の心が寛大だからだろうけど。

そうして、何をするでもなくベッドの上でごろごろと、久しぶりの休日をある意味満喫していた俺はようやく起き上がった。何かを思い立ったからとか、そういう明確な理由はないので期待しないでいただきたい。単なる気分転換だ。
そのままぐるりと視線だけで室内を見回す。いつも通り、何も変わらない俺の部屋。まず目に入るのは机に積み上げられた本の山。いきなり気分が重くなる。片付けなきゃなあと脳の隅っこで思考しつつ、使い古したパソコンを視界に収めて。そのまま右へ視線をずらす。そうして目についたのは、埃を被ったテレビゲーム機とコントローラ。何となく興味をもった俺は、のそりとベッドから立ち上がるとゲーム機の側へと向かう。寝起きの遅い足取りで辿り着いた場所にぽつんと置かれたそれに触れると、指に埃がこんもり。どれだけの間使っていなかったのだろうか。いや、まだ捨てていなかったことが驚きだ。
指についた埃をふうっと吹き飛ばし、さあそろそろ起きるかと一つ伸びをした途端、懐かしい記憶がひょっこりと顔を出した。

(ああ、そうだ)

そういえば、昔はあいつと毎日のように遊んでたっけ。そうそう、それで、あれはいつだったけっかなあ。俺があいつに悪戯だか何かしらの報復だかで、ボス戦でリセットボタンを押したんだ。そうしたらあいつは無言で怒って、俺は内心やばいかな、なんて焦って。それで、あいつは。レッドは。

懐かしさと共に妙な恥ずかしさがぶり返す。至近距離で見たレッドの赤い瞳が離れない。どうした俺、しっかりしろ俺!あんなガキの頃のキスの一つや二つ何だってんだ。あれから先女の子と何度もしたことあるだろ!今更思い出して照れるとか、どこの純情少年だよ……。
そうやってどんなに自分に問いかけても、変に高ぶった熱は冷めなかった。くそ、なんだよこれ。こんな、レッドに会いたい、とか。

そのまま窓の外へと視線をやると、レッドの家の屋根が見えた。それのお陰なのか、俺は冷静さを取り戻す。そうだ、俺はもうあの時とは違う。あんなちっぽけなただのガキじゃあない。今じゃあ立派なジムリーダーだ。それと同じ様に、レッドだってもうあの家にはいないのだ。遊びたくなったら、会いたくなったら家に押し掛ければよかったあの頃とは違うんだ。俺はもう、大人なんだから。

だから?

そこまでごちゃごちゃと思考していた脳内がぴたりと動きを止めた。だから、何なんだ?いや、答えは出ている。分かっている。簡単には会えないんだから、諦めればいい。それが正しい答えなんだ。けど、

「ピジョット」

ガラリと窓を開け放つと、俺はモンスターボールを一つ放り投げた。何をごちゃごちゃ言っているんだ俺は。子供だとか大人だとか、そんなことどうだっていい。俺が今、レッドに会いたいんだよ。それなら会いに行けば良い。そうして、抱き締めてやればいい。それで全部解決するんだろ?

光と共に現れた仲間の背中に飛び乗るために、俺は窓枠から身体を乗り出して、シロガネ山、と告げたのだ。

―――
タイトル→棘
(100515)

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -